僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい



「紫月さんは優しいだけじゃないですよ」

「今はそうかもな。でも昔の俺は、優しいだけだった。俺は十歳年下の弟が怪我をしないように、泣かないように毎日必死に暴力に耐えることだけで精一杯で、両親に反抗することもできなかった。そのせいであいつは……一体後何年、いや、後何日生きていられるのかもわからない」

 紫月さんの瞳が潤んでいる。

 弟さんが植物状態になったのは、紫月さんのせいじゃない。でも、多分今ここで俺が『紫月さんは何も悪くないですよ』と言ったところで、紫月さんは納得しない。紫月さんのせいではないけど紫月さんが家にいたら、弟さんが植物状態にならなかったことは確かだ。それなのに、自分のせいじゃないって言われて納得するわけがないだろう。

「ごめんな、蓮夜」

「え、どうして、紫月さんが謝るんですか?」

「母親が偽善者なんて言ったけど、多分俺も偽善者だ。お前が俺に助けを求めるまで、助けなかったから」

「そんなことない、紫月さんは偽善者なんかじゃないです。だってきっと、誰も考えませんよ。姉から暴力を振るわれる時間を減らすためだけに、漫画喫茶に入り浸っているなんて」

「ああ、そうだ。誰も考えない。それがどういうことかわかるか、蓮夜」

「え?」
「誰も考えないことをしてしまうくらい、お前は大変な状況だったってことだよ。俺はそのことに、お前が腕を怪我するまで気が付かなかった」

 誰かにそんなふうに言われたことも、考えたこともなかった。

「蓮夜、頼むから何もかも受け入れないでくれ。俺はお前があの姉を肯定するなら、俺はあの姉を全力で否定するから。頼むから、姉のために自分を殺そうとしないでくれ。家にいたかったら、漫画喫茶に逃げようなんて考えないで、たとえどんな手段を使ってでも、家で平穏に過ごそうとしてくれ。過去はダメでも、これからは少なくともそうしてくれ。お前はまだ十六歳なんだ。我慢することなんて、覚えるのは社会人になってからでいい」