「まあ俺のことを犯罪者って言っていたくらいだし、そういうことは言うだろうな。……お母さんは、どうなんですか?」
紫月さんが俺の耳元に顔を近づけて、会話に参加してくる。紫月さんはまだ赤みが引かないのか、一向に顔から手を離そうとしない。
『え、何ですか?』
「お母さんは、俺を犯罪者だと思いますか?」
『いえ。私は、少なくとも誘拐だとは思いません。蓮夜があんなふうに即答で、楽しいと言ったのなんてすごく久しぶりですし、きっと紫月さんは信頼に足る人なのだと思います』
「そう言っていただけて何よりです」
「あはは、あははは!」
顔を隠しながら、冷静なふりをしてそんなことを言っている紫月さんを見ていたら、笑いが込み上げてきた。
「おいこら蓮夜! 笑うんじゃねえ!」
「ええ、別にいいじゃないですか」
紫月さんが俺にデコピンをしようとして、顔から手を離す。俺に笑われているのが恥ずかしいのか、紫月さんの顔が、トナカイの鼻みたいにますます赤くなっていく。そんな紫月さんを見ていたら余計笑えてしまって、俺は結局、紫月さんが呆れるまで笑い続けた。
『ふふ、楽しそうね、蓮夜』
俺と紫月さんの声を聞いて、母さんは笑う。
「うん、紫月さんといると、すごく楽しい」
『そう。……よかった、本当に、よかった! これからも、仲良くね』
スマフォから、母さんのくぐもった、泣く寸前のような声が聞こえた。
胸が熱くなった。
俺が母さんに心配をかけないように振る舞っていたことに対して、母さんは今まで、何も言ってこなかった。日に日に増えている身体の痣や破けた服などを見て、虐待が悪化しているのには気づいていたハズなのに、母さんは俺の気持ちを察して、何も聞かないでいてくれた。
母さんがそうしてくれなかったら、きっと俺は今よりもっとひどい虐待を受ける羽目になっていた。
そして、そうなっていたら、俺は多分、紫月さんに何があったかを話す前に、自殺していた。母さんのおかげで、そうならないで済んだ。そう思ったら、瞳から大粒の涙が溢れ出した。
紫月さんが手の平でそっと、俺の涙を拭う。
「うん、うん」
俺は泣きながら、何度も母さんの言葉に頷いた。



