僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


『どうして、蓮夜の為にそこまで尽くしてくださるんですか』
 紫月さんが眉間に皺を寄せる。多分弟さんのことが話しづらいから、そんな顔をしているのだろう。

「……全ては会ってからお話します。お母さん、今日、空いている時間ありますか?」
『夜勤の仕事が十時からなので、その前でしたら』
「でしたら夜の七時くらいに、三人で飯を食べに行きませんか? そこで、俺がどうして蓮夜を保護したのかをお話します。もちろん、飾音さんのこともお話しますので。ご都合はいかがですか?」

『かしこまりました、その時間で大丈夫です。紫月さんと蓮夜は、今どちらにいますか?』

「今は湯河原にいます。すみません、蓮夜はあまりに辛い経験をしたので、一度旅行に行って、羽を伸ばした方がいいんじゃないかと思って、学校を休ませてしまっています」

『そうなのですか。すみません、お気遣いいただきありがとうございます』

「いえ、俺も最近仕事と身内のことが大変で全然休めていなかったので、正直、旅行に行く機会を得ることができてありがたいです」

『そういっていただけると、こちらもとてもありがたいです。場所は東京都の近辺で、蓮夜と紫月さんが行きやすい場所で構わないので、決まったらご連絡ください。よろしくお願いします』
「わかりました。こちらこそよろしくお願いします」
 紫月さんが俺にスマフォを返す。
『蓮夜、紫月さんは、いい人ね』
「うん、俺にはもったいないくらい、いい人」
「なっ、蓮夜……」
 紫月さんが小声で俺を呼んで、顔を両手で覆う。両手の指の間から見える紫月さんの顔が、少しずつ赤くなっていく。どうやら、照れているみたいだ。

 指の隙間から、紫月さんの瞳が見えた。俺と目が合うと、紫月さんは声を出さないで、口だけを「見るな!」と動かした。

『蓮夜、旅行は楽しい?』
「うん。すごく、楽しい」
 つい口角を上げて頷く。

『そう、よかった。危ない目には遭ってない?』
「うん、遭ってない」

『そうなのね。よかった。それならやっぱり、誘拐されたわけじゃないのね』

「誘拐?」
 眉間に皺を寄せて聞き返す。

『ええ、蓮夜が紫月さんと家を出てすぐの頃に、飾音が私に、蓮夜が誘拐された!って、言ってきてね。蓮夜は他人に騙されるような子じゃないし、違うと思っていたのだけど、やっぱり違ったのね』