僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


 俺がクローゼットに閉じ込められていた時に母さんと姉ちゃんが話した内容を聞いて、俺は絶句。
 姉ちゃんの号哭は、子供のわがままのような内容だった。姉ちゃんは自分のことしか考えられていない。俺のことは、少しも考えてくれていなかった。

 紫月さんが突然、声を上げて笑い出した。

「あははは。やっぱりクソガキだな。悪い、蓮夜。クソ姉って言ったらお前が落ち込むかと思ってそう呼ぶのをやめていたけど、やっぱりお前の姉はクソだ。姉ちゃんなんて呼ぶ価値もねぇ」

 紫月さんが服屋の壁を睨みつける。俺を睨みつけないために、壁を見ているのだろうか。

「そんなこと……」

 そんなことないとは、言えなかった。姉ちゃんはただ、やり場のない思いを俺にぶつけて楽しんでいただけだった。それなのにひどい姉じゃないなんて、とても言えない。でも……。

「そんなことあるだろ! お前の姉はクソガキだ。事故に遭ったのには同情する。踊れなくなって気の毒だったと思う! でも、たとえお前の不注意が原因で事故に遭ったんだとしても、それがお前をいじめていい理由にはならないんだよ! それなのにお前をいじめているあいつは、ただのクソガキだ」
 俺の肩を揺さぶって、紫月さんは叫んだ。力が強すぎて、体がこわばる。

 クソガキじゃないって言える理由が、俺にはなかった。俺はずっと、姉ちゃんが暴力を振るってくるのは自分のせいだと思っていた。でも、そうじゃなかった。あの事故が俺に暴力を振るうきっかけになってしまったのは確かだけれど、あの事故が、俺に暴力を振るっていい理由にはらない。だって、他でもない姉ちゃんが、『こんなことしちゃいけない』と言ったのだから。

『実の娘の暴言を吐かれるのには遺憾を覚えますけど、正直、私もそう思います』
 紫月さんの叫びをスマフォ越しから聞いていた母さんが言う。

 紫月さんが俺に、スマフォを貸すように言ってくる。俺からスマフォを受け取ってから、紫月さんは口を開く。

「初めまして、お母さん。紫月義勇です。お母さん、お願いします。力を貸してください。俺は蓮夜のために、あのクソ姉の根性を叩き直したいです」

 紫月さんが頭を下げる。
 根性を叩き直す? 紫月さんは他人の家の問題に、どこまで首を突っ込む気なのだろう。何でそこまでしようとしてくれるんだ。どうしてこんなに優しいんだ。

『私も、飾音の考えを正さないといけないとは思います。ですが、たとえ紫月さんが連夜の味方だとしても、急に協力関係になることはできません』
「俺に信用がないのはもちろん承知しています。 ですがここは、信用は一旦置いておいて、俺の考えだけでも、聞く時間を設けてくれませんか?」