僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「うわ、やべえ! ビールあるじゃん!!」

 ベッドの隣に置いてある小さな冷蔵庫を開けて、紫月さんは叫んだ。冷蔵庫は、足が長い机の下にあった。紫月さんの隣に行って冷蔵庫を覗き込むと、そこにはビール瓶と、ペットボトルの水が五本ずつ置かれていた。

 ビールを手に取って、紫月さんは笑う。

「飲んでいいんですか?」
「ああ。これはサービスだから。蓮夜は何飲む? 紅茶?」
 紫月さんは冷蔵庫を閉めると、冷蔵庫の上にある机を見て首を傾げた。机の上には、かごとケトルと、栓抜きとコップが置かれていた。かごの中には、ティーバッグや、ココアやカフェオレの粉が入った袋が入っていた。
「はい、紅茶飲みたいです」
「おっけ」
 紫月さんはビールを机の上に置いて、コップの中にティーバッグを入れた。
「え、俺、自分でやりますよ」
「いい、大丈夫」
 紫月さんがケトルのボタンを押して、コップにお湯を入れてから、俺にコップを渡してくる。
「ありがとうございます」
 コップを受け取って、ベッドの上に腰を下ろす。紫月さんは鼻歌を歌いながら、栓抜きでビール瓶の蓋を外した。紫月さんは白い泡がギリギリ溢れないところまで、コップにビールを注いでから、ビール瓶を机に置いた。

 紫月さんがビールの入ったコップを持って、俺の隣に来る。

「蓮夜、明日お前の服買いに行こうと思うんだけど、どんなのがいい?」
「え、俺の服ですか?」
「そ。いつまでも俺の服着ているわけにもいかないだろ」
 ビールを飲みながら、紫月さんは俺の格好を見る。俺は今、紫月さんが学生の頃に身につけていたズボンとパーカを着ている。俺は紫月さんより背が低いから、服が一回り大きくて、袖が萌え袖になっていた。ズボンも長くて、折らないと床にジーパンの生地がついてしまう。

「でも俺、紫月さんに服を買ってもらっても何も返せるものがないし、これ以上は本当に申し訳ないです」

「申し訳ないなんて考えなくていい。俺はお前が笑ってくれるためなら、何だってするから」
 俺の背中を撫でて、紫月さんは一気にビールを飲んだ。

「はー最高!」

 口の周りに着いた泡を舌で拭って、紫月さんは笑う。ビール飲んでいる紫月さんは、嬉しそうに目を輝かせていた。まるで、幸せの絶頂みたいな顔をしている。

「嫌にならないですか? 赤の他人のせいで、自分のお金がどんどん減っていくの」

 紫月さんから目を背けて下を向いて、足をぶらぶらする。俺は紫月さんに優しくして貰えると嬉しいけれど、紫月さんに何かをしてもらう度に、申し訳ない気持ちになる。

「嫌にならねぇよ。そもそも蓮夜は他人じゃねぇし、俺の息子みたいなものだから。むしろ俺は嬉しいよ。ネガティヴでろくに笑えてなかったお前が、どんどん明るくなっていくのが見られて」

 顔を少しだけ上げて、紫月さんを見る。俺と目が合うと、紫月さんは無邪気な子供みたいな晴れ晴れとした顔で笑った。