「蓮夜、どれ食べたい?」
店の屋根の下を指差して、紫月さんは言う。屋根の下の柱には、商品を大きく映したプラスチック製の板が貼ってあった。板は商品の正面図と、断面図を映していた。どうやらパンダまんは肉が入っているものやイチゴが入っているもの、野菜が入っているものなど、様々な種類があるようだ。
「ええ、どうしよう。紫月さんはどれ頼むんですか?」
「俺は普通のにする。チョコカスタード味」
『元祖パンダまん』と書かれた板を指差して、紫月さんは笑う。
俺は何にしよう。
イチゴが気になるなあ。でも、あんこのはパンダの頬が赤くなっていて可愛いから、それも食べてみたい気がする。
「三個くらいだったら買ってやるよ」
俺が迷っているのに気づいたのか、紫月さんがそんなことを言う。
「え。そ、そしたら、あんことイチゴが欲しいです」
「よく言った」
そう言うと、紫月さんは本当に、俺のために、二個も買ってくれた。
紫月さんが商品をもらったところで列から離れて、俺にパンダまんが入った紙の袋を一つ渡してくる。紫月さんとパンダまんを順に眺めてから、俺はそれを受け取った。
「道で食べていいんですか?」
路上で紙の袋を開けて、パンダを口に運んでいる紫月さんを見ながら俺は首を傾げた。
「ああ。歩きながら食べるのは良くないけど、立ち止まって食べるなら別にいいんだよ。中華街はあんま車がこないから、それが許されているんだ」
俺は袋を開けて、ピンク色のパンダの口のところを噛んだ。
「え」
イチゴとあんこが混ざっているかのような味がした。中に入っているものが二つとも甘いから、信じられないくらい甘々だ。
「アハハハハ! れ、蓮夜、口にあんついてるぞ」
紫月さんは俺の頬についているあんを手に取ると、それを舐めた。
「な、何をしているんですか?」
「ん? 父親が子供にしそうなこと?」
首を傾げながら、いたずらっぽく歯を出して紫月さんは笑う。俺は嬉しさと羞恥心で赤くなった顔を隠すみたいに、勢いよくパンダまんを口に含んだ。
俺と紫月さんは十五時過ぎくらいまで食べ歩きをして、十分観光を楽しんだところで、車で湯河原に向かった。
紫月さんはイチゴ飴やしゅうまいなど、色々なものを俺に食べさせてくれて、俺が食事をしているのを見るたびに、満足そうに笑っていた。
「紫月さん、今日はありがとうございました。おかげですごく楽しかったです」
車の運転手席に座っている紫月さんを見て言う。
「礼なんていらねぇよ。お前の世界はこれからずっと楽しくなるんだから、その度に礼を言っていたらキリがないだろ」
ずっと?
「旅行が終わっても、紫月さんのそばにいていいんですか?」
「ああ、いいよ、俺は虐待のことが解決しても、ずっとお前のそばにいる」
嬉しすぎて、涙が出そうになる。その言葉を信じたら、俺は地獄に堕ちますか? それとも、その言葉通り、ずっと一緒にいてくれますか? 隣にいて欲しい。弟さんが死んでも、紫月さんだけは生きて俺の近くで笑っていて欲しい。そう思うのは、我儘ですか……? そんな風に考えていたら、俺は紫月さんに何も言うことが出来なかった。



