俺はご飯を食べ終わると、食器を洗ってから支度をして風呂に入った。
風呂からニ十分くらいで出ると、俺はすぐにドライヤーをして、歯を磨いて、自分の部屋のベッドに行った。
いつの間にか、俺は公園にいた。自分の部屋のベッドで眠っていたハズなのに、そこにいた。
「夢か」
瞬間移動なんてできるわけないし、きっとそうに決まっている。
公園は砂場とジャングルジムと滑り台とブランコがある至って平凡な公園だった。
「ここって……」
公園の景色に見覚えがあった。
――ここには、四年前に姉ちゃんと来たことがある。
ブランコに座っている子供が、スケッチブックに絵を描いていた。……十二歳の時の自分だ。
『蓮夜、何の絵描いてるの?』
姉が幼い俺の頭を撫でて、笑って問いかける。
……この時の姉ちゃんは、穏やかだったんだよな。
『猫』
十二歳の自分は笑って返事をした。
『そう! 上手ね、蓮夜!』
『……ありがとう』
公園の前にある道路の脇に、白い猫がいた。野良犬が猫に近づく。猫は慌てて道路に飛び出して、野良犬から逃げた。
『あ! 待って!』
「やめろ! 追うな!」
俺は十二歳の自分に向かって、あらん限りの声で叫んだ。
十二歳の自分が俺の声を無視して猫を追って、道路に飛び出した。
横断歩道の信号が赤になっているのにも気づきもしないで。
『蓮夜!』
十二歳の自分は横断歩道で姉に背中を押され、尻餅をついた。次の瞬間、姉が車に轢かれた。
「あっ、あ……あぁ……」
頼りがいのない子猫のように掠れた弱々しい声が漏れた。
全身血まみれの姉。
救急車を呼ぶように叫ぶ人達。
姉を轢いたからか、青白い顔をして、口をパクパクさせているトラックの運転手。
何が起きたかわからず、血まみれの姉を眺めながら、道路に座り込んでいる十二歳の自分。
――これは、あまりに最悪な夢だ。
「うっ!」
悪夢から目が覚めると、猛烈な吐き気に襲われた。
俺は急いでトイレに行き、便器に汚物を一気にぶちまけた。
「はぁっ、はぁ……」
苦しい。吐いても、吐いても吐き気に襲われる。口から胃液しか出てこなくなるくらいまで吐いたら、やっと吐き気が収まった。
俺は四年前からあの悪夢を一週間に一度は見ている。
……いつになったら見なくなるのだろう。
姉ちゃんが俺に暴力をしなくなったら、見なくなるのだろうか。
……そんな日が、来るのか?
来ない気しかしないな。
俺は汚物を流すと、消臭スプレーを便器の周りにまいてから、重い足取りでトイレを出た。



