神が『それが間違いだった』と言うなら、どうか教えて欲しい。俺はあの日、どうするべきだったのかを。
「蓮、蓮夜!! いるのか? いるなら返事をしてくれ‼︎」
もう随分と聞き慣れた声が、耳に届いた。嘘だ。ありえない。紫月さんが、こんなところまで俺を探しにくるわけがない。
紫月さんからしたら、俺はただの弟の代わりだ。それなのにこんなところまでくるわけがない。だいたい、どうやってこの場所を突き止めた?
ドアを開けて、確かめたい衝動にかられた。
鍵を開けて、そうっと、足音を立てないようにして個室のトイレから出て、公園の様子を窺う。公園の入り口に、紫月さんがいた。どうして、何で、こんなところにいるんだ。俺のことをただの弟だって言ったのは紫月さんなのに。それなのにこんなところまできたら、ただの弟じゃないって言っているようなものじゃないか。
「……いないのか?」
今にも消えそうなほど弱々しい声で、紫月さんは呟く。
その声はとても不安げで、震えていた。声も態度も、俺のことを弟の代わりだとしか思っていない人のものとはとても思えない。
でもここで紫月さんの手を取ったら、また俺は傷つくのではないのか?
俺はトイレの個室に戻って、個室のドアを、二回ほど叩いた。
音に気づいた紫月さんが駆け足で、男子トイレにくる。
「蓮夜、そこにいるのか?」
男子トイレに一つだけある個室のドアをノックして、紫月さんは言う。
その言葉に頷く勇気が、俺にはなかった。
その言葉にどう答えるのが最善なのだろう。
「はい、います」という気にも、紫月さんを呼ぶ気にもなれなくて、俺はただ無言を貫いた。



