いつかお別れが来るなら、それは今日じゃなくていいハズだった。それなのに。
どうして、俺は紫月さんの子供じゃない。何で紫月さんはあんなに、弟さんのことばかりを考える。
何で俺は、あんなブラコンで、赤の他人を弟の代わりとして見るような人を慕ってしまったのだろう。紫月さんを慕っても、辛いだけなのに。
『店長は外見だけを取り繕ったただのハリボテ。どんなに人当たりが良くても、結局は弟さんのことしか考えてない』
鈴香さんの言葉を思い出す。確かに、本当に、そうなのかもしれない。
紫月さんを神様だと思った。クローゼットに閉じ込められていた時にかかってきた一本の電話に、俺は救われた。
でも、紫月さんが俺に、優しくした理由は……。
紫月さんが俺に電話をしたのは、俺を弟の代わりのように感じていたから。
家の窓を割って俺を助けに来たのは、弟の代わりの俺が、クローゼットに閉じ込められていたから。
紫月さんが俺の頭を撫でたのは、俺を、弟の代わりとして扱っていたから。
紫月さんが俺にとった行動は全部、俺に向けたものじゃない。弟さんに、向けたものだ。
それでいいって思っていたハズなのに、俺は紫月さんが俺に笑いかけてくれたり、優しくしてくれたりする度に、どんどん欲深くなってしまった。
紫月さんに、『弟じゃなくて、俺を見てよ!』って言いたくなってしまった。
「……こうなるから、一緒にいない方がいいって言われたのに」
紫月さんはずっと、俺と暮らさない方がいいと言っていた。
あの忠告を俺がちゃんと守っていたら、こんなことにならなかったのに。
でも、あの忠告を守っていたら、きっと俺はまた姉ちゃんに暴力を振るわれていた。
あの家で実の姉に暴力を振るわれ続けるくらいなら、赤の他人の紫月さんと、穏やかに過ごした方がよっぽどマシだと思った。
そう思ったのが、間違いだったのか?



