「蓮、昼飯、オムライスでもいい?」
二人で駐輪場に向かって歩いていたら、紫月さんが首を傾げて聞いてきた。
「はい。紫月さんって、オムライス好きだったんですか?」
「いや俺はそんなに。ただオムライスなら、スプーンしか使わないし、指が折れてても食べられるかと思って」
俺の身体を気遣ってくれたのか。
紫月さんに優しくしてもらえるのが嬉しくて、心がポカポカした。
「……ありがとうございます、嬉しいです」
「ん。じゃあ、オムライスの店に行こう」
ズボンのポケットからスマホをとって、紫月さんは言う。
オムライスの店に行くために、ナビを起動しようとしているのかもしれない。
「あ。でも、あんま外居ると、姉ちゃんに見つかるかもだよな。そしたら買い物だけして、家で食う?」
うっ。確かに。
「……で、でも俺、紫月さんと、外でご飯食べたいです」
「え、お前そんな素直だったっけ?」
目を丸くして、紫月さんは言う。
「……素直じゃ、いけませんか」
指摘されたのが恥ずかしくて、ひねくれた返事をしてしまった。
「いや、そんなことねぇよ。でも何で? 一緒に食べたいのはわかるけど、よりによって外で食べたいなんて」
「俺、虐待されて以来家族と外食したことなくて。紫月さんは家族みたいな人だから、久しぶりに外食したいなって」
「えー、何だよ、その理由。可愛いすぎだろ」
頬を赤くして、紫月さんは口元に手を当てる。
「か、かわっ!?」
身体の熱の温度が上がって、顔が一気に真っ赤になる。
「はぁ。何で俺の弟はこんなに可愛いんだ」
その言葉を聞いた瞬間、熱が冷めた。
……弟。
何で。紫月さんの弟さんじゃなくて、俺が、一緒に食べたいって言ったのに。
涙が頬を伝う。
嗚呼。どうして。わかっていたはずなのに、こういうことになるって。弟の代わりなのだから、こういうことが起きるのは覚悟していたハズだった。
それなのに、涙がどんどん溢れ出す。
……俺は、覚悟したつもりになっていた。俺は紫月さんの異常性が分かっているフリをしていたけれど、本当は全然分かっていなかった。



