僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


 ――ん?
「あの、紫月さん、弟さんも、虐待を受けてたんですよね?」
「ああ、そうだけど? まあ弟はまだ幼かったから、俺が弟を庇って暴力を受けたりすることも結構あったけど」

 それならどうして、親が死んだのが原因で植物状態になったんだ? 虐待されていた子供が、親が死んだのに心を痛めて植物状態になるなんて、変じゃないか?

「弟さんは両親のことが好きだったんですか?」
「いや、好きじゃなかったと思う。むしろあいつは、親を怖がってた。部活帰りの俺が虐待を受けているのを、そばで見てたし」

 暴力を受けていても、俺と同じように親のことが好きだったのかもしれない。でも、たとえそうだとしても、兄がいるのに植物状態になるのは変な気がした。

「それならどうして、親が死んだのが原因で植物状態になったんですか」
「あいつが八歳だったからだよ。虐待を受けていたとはいえ、親が首をつってるのを見たら、誰だって動揺しちまうだろ」
「……そうですか」

 確かに動揺はするのかもしれない。
 でも、いくらなんでも植物状態になるのは、度が過ぎてないか? そんな想いが頭をよぎったが、それ以上は聞けなかった。赤の他人の俺がこれ以上聞いたら、ダメな気がしたから。

「店長、入っていいですか」
 ドア越しに鈴香さんが語りかけてくる。

「いいけど、足元気をつけろよ」
「足元?」
 首を傾げながら、鈴香さんが部屋に入ってくる。
「えっ、何があったんですか!」
 部屋に入ると、鈴香さんはすぐさま声を上げた。

「すいません、俺がコップを割っちゃって」
「え、そうなの? 蓮くん大丈夫? 怪我とかしてない?」
 俺の顔を覗き込んで、鈴香さんは言う。
「はい、俺も紫月さんも怪我はしてないです」
「良かった。ただでさえ二人とも怪我してるのに、これ以上怪我なんてしたら気が気じゃないもん」
 気が気じゃない、か。
 そんな言葉、姉ちゃんは絶対に言わないだろうな。
「ハハ、すみません」
「ううん、大丈夫だよ。私、紅茶入れ直してこようか?」
「お願いできますか?」
「オッケー。味はどうする?」
「台所にさっき使ったティーバッグ置きっぱなしなので、それで大丈夫です」
 俺の言葉に元気よく頷いて、鈴香さんは足元に気をつけながら弟の部屋を後にした。

「蓮、洗面所にタオルあるから、持ってきて。バスタオルじゃなければどれでもいいから」
 俺は紫月さんの言葉に頷いて、足元に気をつけながら弟さんの部屋を出た。

 その後、三人で床の片付けをしてから、ヨーグルトを食べると、すぐに鈴香さんは帰って行った。

 結局、紫月さんは鈴香さんが副店長の人にメールを送ったこともあって、明日から一週間仕事を休むことになった。というのも、紫月さんはどうやら弟さんに何かがあった時のために、いつも仕事に出勤する人をあらかじめ多めにしていたらしく、それもあって一週間くらいの休暇なら何も問題ないのだそうだ。