「蓮くん、店長のこと好き?」
キッチンで紅茶を選んでいると、俺の隣にいる鈴香さんが不意にそんなことを聞いてきた。
「え? きゅ、急に何ですか?」
予想外の質問に思わず狼狽える。
「ちょっと気になって」
気になった理由は教えてくれないのか。
「はあ。まあそうですね、好きです。紫月さんがいなきゃどうなるかわからなかったですし」
紫月さんがいなかったらきっと俺は死んでいた。
それは誇張でも何でもなくてただの事実だ。あまりに悲しくて涙が出るくらい辛い現実。俺は実の姉に殺されかけた。
「そう。でも慕わない方がいいよ。店長、いい人なの外見だけだから」
外見だけ……。
俺はカゴいっぱいに入っているティーバッグを眺めた。
「店長は外見だけを取り繕ったただのハリボテ。どんなに人当たりが良くても、結局は弟さんのことしか考えてない」
的を射ているのかもしれない。
紫月さんは確かに、何をするにしても弟さんのことを中心に考えている。この異常なほどのティーバッグの量が、それを証明している。
俺を助けたのも、俺が弟さんと同い年で、俺が弟さんと同じように虐待を受けていたからだし。
「それでも俺には紫月さんしかいないので。それに紫月さんが悪い人じゃないのは、俺が身をもって知ってます」
たとえ弟さんのことがあったとしても、虐待を進んで助けて同居まで持ちかけてくれる人なんてなかなかいないから。
「そう。後悔しても知らないからね」
自分が後悔したみたいな言い方をされた。
鈴香さんと紫月さんの間には一体何があったのだろう。
カゴを見るのが嫌になってしまった。俺はカゴから目を逸らすと、すぐに流し台のそばにあったオレンジのティーバッグをとった。ティーバッグは、手のひらサイズのお皿の上に置かれていた。
コップの中にティーバッグを入れてポットでお湯を注ぐ。俺がそうしている間、鈴香さんはコップにスプーンでココアの粉を注いでいた。
「俺、もう紅茶できたので、コーヒー入れますね」
そう言うと、俺は冷蔵庫を開けて、コーヒーを探した。
さっき鈴香さんと話したことや、紫月さんのあの態度のことが気になって落ち着かない。俺はコップにコーヒーを入れると、それと紅茶が入ったコップを持って、すぐに弟さんの部屋に行った。
「蓮、お帰り。それ、よく持ってこれたな。腕きつくなかったか?」
床に座っていた紫月さんが俺のそばにきて、コーヒーのカップをとる。
「あ、はい。大丈夫でした。火傷の痛みもだいぶ楽になりましたし。まあ骨折した指の痛みは相変らずひどいですけど」
「はあ……。俺はお前からそういう話聞くたびにお前の姉が嫌いになるわ」
コーヒーを持っていない方の手を額に当てて、紫月さんは肩を落とした。



