僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「店長、終わっているなんて失礼にも程があります」

「でも事実だろ?」
 紫月さんが顔を顰める。

「少なくとも蓮くんの前で言うことではないです」
「それはそうだな。ごめん、蓮」
 紫月さんが申し訳なさそうに手を合わせる。

「別にいいですよ、事実ですし」
 この返事、確か前にもした気がする。

「でもまぁ、二十歳でよかったんじゃないですか。その歳ならまだやり直せますから」
「確かにな。ま、説得してはい解決!とはならなそうだけどな。そうじゃなきゃ蓮に虐待なんてしているわけないし」
 その通りだ。
 一筋縄ではいかないに決まっている。でないとこんなことになってるわけがない。

「だとしても親なら虐待は辞めさせないと。それが親の務めです」
 思わず目を見開く。

 一体どんな家庭で育ったらそんな言葉が言えるようになるのだろう。

「……そうだな」
 鈴香さんから目を逸らして、紫月さんは歪んだ笑みを零した。
 冷笑といった言葉があまりに似合う、絶対零度の笑み。その笑みには、虐待をしてきた肉親への恨みが籠っている気がした。

 紫月さんの顔は、鈴香さんの目に入っていなかった。
 それでよかった。むしろそれが最適だったんだと思う。だってあの笑みはどう考えても『そうだな』と言った人の笑みではないから。

 鈴香さんはきっとあの笑みを見たら紫月さんを問いただしてしまう。そうなったら、紫月さんが親に虐待されていたことを話さざるを負えなくなってしまう。紫月さんはきっとそれが嫌で顔を逸らしたんだ。

「ヨーグルト食べません? 俺、スプーンと飲み物持ってきますよ」
 鈴香さんが紫月さんの様子がおかしいのに気づいたらまずいと思って、慌てて話題を変えた。
「私も手伝うよ!」
「いや何で客の鈴香が手伝おうとするんだよ」
 何気ない雰囲気を装って紫月さんは突っ込む。
「怪我人は大人しくしてて下さい!」
「へいへい。じゃあ鈴香コーヒー持ってきて。冷蔵庫にペットボトルに入っているやつあるから」
 鈴香さんが元気良く頷く。紫月さんはそんな鈴香さんを見て少しだけ口元をほころばせた。