僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


 紫月さんの後に続いてダイニングを出て弟さんの部屋に行くと、そこにはあまりに生活感のない世界が広がっていた。


 まず、部屋にはほこりどころか、髪の毛の一本すらもなかった。
 壁もカビなんて一つもなくて、それどころか傷ひとつすらないそれは純白のウェディングドレスを思わせる。
 床だって一歩踏み外せば滑ってしまいそうなほど完璧に磨かれている。
 並大抵の掃除ではきっとこの綺麗さは保てない。紫月さんは一体、この綺麗さを保つためにどれだけの掃除をしているのだろう。
 ……本当に弟さんが大事なんだな。

 部屋の中央に、クッションとテーブルと教科書が置かれていた。
 弟さんが植物状態になってから一切使われてないからか、教科書には折れもシワも見当たらなかった。
 テーブルもクッションも汚れてないし、本当に弟さんを想っているんだな。

 ――コンコン。

「蓮、開けていい?」
 紫月さんがドア越しに語りかけてくる。
 漫画喫茶の人はもう帰ったのだろうか。
「はい」
 俺が頷くと、紫月さんはすぐにドアを開けた。
「ごめん蓮、お前がいるの隠せなかった」
「えっ」
 紫月さんの後ろには、細身の女の人がいた。
 胸まであるロングストレートの髪と二重の目が印象的な可愛らしい雰囲気の人だ。
 紫月さんが働いている漫画喫茶の店員さんで、名前は確か神崎鈴香だった気がする。

「えっ、漫画喫茶によくきてて、店長が気に入っている男の子?」
 俺ってそういう認識なのか。まあ間違ってはいないな。

「ああ。蓮の姉がもう毎日のように暴力を振るってくるようなひどい奴で、今朝、その姉のせいで蓮がクローゼットに閉じ込められてたから、俺が仕事中の親の代わりに助けに行って、蓮の親が姉を説得してる間だけ家で匿うことにした」