僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


 不意に鈴香が玄関にある靴に目を向ける。
 玄関には俺の仕事用の靴とそうじゃない靴が横並びで置かれていた。
 逃げるのに使ったからか、靴は二足とも土や草がたくさんついていた。

「店長、それ、仕事用の靴ですよね?」
 鈴香が俺の仕事用の靴を指差す。
「え。ああ、そうだけど?」
 思わず冷や汗が流れる。
「何で仕事用の靴が玄関に置いてあるんですか?」
「昨日履き替え忘れたんだよ」
「そうですか。じゃあ何で、仕事用の靴もそうじゃない靴も同じくらい汚れているんですか?」

 頭を抱える。
 もうダメだ。これ以上嘘をついても意味がない。

「はあー。なんでお前が俺の仕事用の靴と、そうじゃない靴を把握してんだよ」
「だって店長のこと好きですから。好きな人のことは観察しちゃうんです」
 鈴香が頬を赤らめて、恥じらうように下を向く。いいよなぁ、こういう素直さ。
 俺のことが好きなのを全面に押し出すのはどうかと思うけど、何でも素直に言えるのは、こいつの長所だと思う。まあこんなの絶対に言わないけど。

「いやでも靴だぞ? 靴なんてそんなに気にしないだろ」
「私は気にします。好きな人のことはなんでも知りたいので」
 好きな人のことは何でも、ね。それはわかる気がする。俺も弟のことは何でも知りたいと思っているし。
「……ああそう」
 俺はお前に靴を把握されるのは嫌なんだけどな。
「ちょっと引いてます?」
「ああ。だって気持ち悪いだろ、靴を把握されてるのなんて」
「ひどい! 私は店長の彼女候補なのに!」

「は?」
 思わず鈴香を睨みつける。

「怒んないでくださいよ、冗談なんですから」
「はー。俺、お前のそういうところ本当に苦手だわ」
「私は店長のそういう風に何でも正直に言うところが好きですよ」
「……ああそう」
 鈴香から目を逸らして、どうでもよさそうな雰囲気を装って頷く。
 ただの後輩とはいえ、ここまで真っ直ぐな好意を見せつけられると流石に照れてしまう。

「で? 何で靴が汚れてるんですか?」

「はあ……」
 俺はため息を吐くと、弟の部屋の前に行った。