「店長本当に体調大丈夫ですか?」
鈴香が背伸びをして、俺の額に手を当てる。
「やめろ。大丈夫だから」
俺は鈴香の腕を取って、額からどかした。
「熱はないみたいですね」
「ああ、熱はな」
「店長……もしかして仮病ですか?」
熱がないのを変に思ったのか、鈴香は首を傾げて聞いてきた。
「は、はあ? そんなわけねえだろ」
俺は慌てて否定した。
額から冷や汗が吹き出す。
こいつ、意外と鋭いな。
「なんか怪しいです」
「そ、そんなことないだろ」
「店長体調悪いんじゃないんですか? 急に咳しなくなりましたね」
しまった。焦って演技するのを忘れていた。
「ごほっ、ゴホゴホッ!」
「今更演技しないでください!」
鈴香はわざとらしい咳をした俺に盛大に突っ込んだ。
「すまん。どうしても外せない用事があって。みんなには内緒にしてもらえると助かる」
俺は慌てて頭を下げた。
「用事はもう終わったんですか?」
「ああ、一応」
まあ蓮の家とか学校のこととか、問題は色々山積みだけどな。
「内緒にするので、家に上げてください」
つい眉間に皺がよった。
「いや何でそうなる。帰れ」
「家に上げてくれないと、みんなに仮病なの話ちゃいますよ」
交換条件かよ。
「はあーわかった、上げる。でも一時間だけな。俺今ちょっと考えなきゃいけないことあるから」
鈴香が俺の顔を覗き込む。
「私でよければ相談に乗りましょうか?」
「いやいい。独りで考えなきゃいけないことだから」
蓮を攫ったのは俺だから、俺独りで考えないと。
「そうですか」
鈴香が肩を落とした。
事情が事情だから仕方ないけど、今の言い方はちょっと冷たかったな。
「……ごめん、俺、本当に気が利かなくて」
「いえ。私が勝手に傷付いただけなので」
そういう問題じゃないだろ。
「お詫びに何かご馳走する」
「え、いいんですか!!」
「ああ、上がれよ」
「はい! お邪魔します!」
そう元気よく言うと、鈴香は脱いだ靴を丁寧に揃えて玄関の隅に置いた。
靴は揃えるのか。育ちはいいんだな。



