「そんじゃ行ってくる」
そう言って俺はダイニングを出て玄関に行った。
「はあ」
俺はため息を吐いてから部屋のドアを開けた。
「店長、体調大丈夫ですか? お見舞いに来ちゃいました!」
ドアの前にいた鈴香が甘ったるい声で言う。
鈴鹿はトートバッグを肩からぶら下げていた。
「ゴホッ。来なくていい、帰れ」
俺は体調が悪いふりをしながら、そうつっけんどんに返した。
漫喫風邪ひいたって言って休んだから、体調が悪いフリしないとなんだよな。
「えーひどくないですか。それが彼女候補に対する態度ですか!」
「俺は彼女を作る気はないし、お前を彼女候補にした覚えもない」
「そんなんだからモテないんですよ?」
「ゴホッ。モテなくて結構」
そう言って、俺は肩を落とした。
自慢じゃないが、俺は全くと言っていいほどモテない。
それは俺が植物状態の弟の面倒を八年も見続けていて、仕事が終わったらすぐに弟がいる病院に行くような奴だからだ。そんな奴に告白をする女がいるとしたら、それは多分ただのアホだ。だって考えてみろ。仕事の後に弟がいる病院に必ず行く男が、彼女を大切に出来ると思うか? 弟の面倒を見る時間を割いてまで彼女とデートをしようとすると思うか? しないだろう。 彼女のことより弟のことを優先するに決まっているだろう。そんな俺を好きだと言う奴が本当にいたら、そいつは多分現実を見れていなくて、他人を見極める能力がない救いようのないバカだ。
こいつはそんな救いようのないバカに成り下がった女。漫画喫茶の正社員雇用の面接を俺目当てで受けに来た頭のおかしい奴。
神崎鈴香。
茶髪の胸まであるロングストレートの髪に、二重で、パッチリとした目。クマもニキビも傷もない白くてツヤのある肌。百五十ほどの小さめな背。はっきり言って見た目はかなりいい方だと思う。頭はかなりおかしいが。
鈴香は面接で志望動機を聞いた時、俺が好きだから働きたいと言ってきた。
鈴香が面接を受けにきた時、漫画喫茶は人手不足で、猫の手も借りたいような状況だった。そんな状況だったから、俺はやむをえず、鈴香を採用した。志望理由を色恋沙汰だというあまりにおかしな女を。



