でももしそうだとしたら、どうして紫月さんは『俺と暮らすか?』なんて言ったんだ?
「……紫月さんは矛盾してます。『さっきは俺と暮らすか?』って言っていたのに、今度は突き放して。俺は紫月さんの本音がわかんないです!」
「……今のが俺の本音だよ。俺は本当にお前と暮らしたいなんて少しも思ってない。むしろ、それを断るようお前を誘導したんだよ。わざとお前を試すような質問をして答えを急かしたり、自虐趣味な面を見せたりして」
絶句した。
どうするって聞いたのも、突き放すためだったんだ。
「……嘘ですよね?」
「な訳ないだろ。蓮、そういうやり方を世間ではなんて言うか知ってるか? ――誘導尋問だ」
全身に鳥肌が立った。
「……俺を突き放すためだけに、そんなことをしたんですか」
「ああ、そうだよ。ひどいだろ?」
「はい。俺じゃなかったら、紫月さんを嫌ってると思います」
「……そう思うなら、俺を慕うなよ」
「嫌です。……紫月さん、俺も何かを失うのは怖いです。紫月さんが虐待されそうになっている俺を庇って死んだら、生きていけないと思います。でもそういう辛さは一人で抱えるものじゃなくて、分かち合うものでしょう! 虐待の辛さを一人で抱え込んでいた俺の気持ちを汲んでくれたのは、紫月さんなんですよ?」
「俺、そんなことしたか?」
冗談でもそんなふうに言わないで欲しかった。俺は昨日、紫月さんに家族のことを聞かれたから、電話をしたのに。
「しましたよ! 俺は昨日紫月さんに家のことを心配されたから、助けを求めたんです!」
「……蓮、引かないのか? 弟が植物状態になってからもう八年が経ったのに、いまだに誰かがいなくなるのに怯えている俺を、変だと思わないのか?」
「思わないです! そんなことを言ったら、もう四年も虐待されてるのに姉を悪人だと認めたくない俺だって変です」
「フッ。……それはそうだな。……蓮、いや、蓮夜、俺と生きてくれるか? 多分俺はお前の想像以上に執着が強いと思うけど」
紫月さんは観念したかのように目じりを下げて笑った。
「もちろんです。一緒に生きましょう、紫月さん」
紫月さんの手を握って、俺は笑った。



