僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい



 それが俺が画家を目指した理由で、それ以外に画家を目指す理由なんてない。
 ダンスに夢中で、家では食事や風呂の時以外はダンスの動画を何時間も見続けて、何時間もぶっ通しで踊っていた姉ちゃん。そんな姉ちゃんが、ダンスの大会前なのに母親につられて家族で行った美術館で絵にくぎづけになって、俺に絵を描くように言った。モナ・リザを指さしてそんなことを言うなんて、とんでもないことなんだ。

 俺は別にそれまで絵を描くのが好きだったわけじゃない。ただ授業で描くように言われていたからそうしていただけだった。それが、姉にその言葉を言われた途端、絵との向き合い方が変わって俺はいじめなんかそっちのけで絵を描くようになった。そうなったら、いじめが急に止んだ。やりがいが無くなったとかいうのが理由で。
                 
「蓮、たぶん、その言葉に大した意味は……」    
                    
 俺は紫月さんの言葉を遮った。
                         
「知ってます。その言葉に本当は大した意味がないことくらい。きっと姉ちゃんはその言葉を思い付きで言っただけ。仮に本心で言ったんだとしても、せいぜい一週間で言ったのを忘れるくらいの想いしかそこには込められてない。そうじゃなきゃ、俺に虐待をして絵を描く時間を奪うわけがない」     
                       
「それがわかっているなら、なんで姉のために夢を捨てるんだ! ……お前が画家を志したのは、確かに姉の言葉がきっかけなのかもしれない。でも今はそれだけじゃないだろ!本当に姉の言葉だけがお前が画家を目指す理由だったら、こんなにパレットが汚れるわけがないんだよ! このキャンバスだって、とっくに捨ててるハズだ!」