僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


 タオルは引き出しの二段目にあった。

「これでよし。そんじゃ、風呂場に行くか」
 床を拭き終わると、紫月さんは言った。
「……はい。ありがとうございます」 
 俺が礼を言うと、紫月さんは満足そうに笑った。
「紫月さん、歩けます?」
「ああ、平気。お前こそ大丈夫か?」
 紫月さんが俺の顔を覗き込む。
「俺は大丈夫です。別に足を怪我したわけじゃないですし」
「でも他のところをかなり怪我しただろ」
「……それはそうですけど」
「よっ」
 紫月さんは俺の右腕を抱えた。
「えっ。いいですよ」
「遠慮すんな。腕、痛いんだろ?」
「……すみません、ありがとうございます」
「おう」
 紫月さんは俺の腕を引いて、廊下に出た。

「ここ、蓮の部屋?」
 紫月さんは俺の部屋の前で足を止めた。
「そうです」
「入っていい?」
 どうしよう。
 入られたら、絵を描いているのがバレるよな。
 まぁでも、紫月さんならいいか。
「いいですよ。別に見ても大して面白くないと思いますけど」
「じゃ、お邪魔します。ん? ……これ、キャンバス?」
 紫月さんは俺の部屋に入ると、キャンバスを見て首を傾げた。
「そうです」
「蓮、絵を描くの好きなのか?」
「……はい。今はもう描いてないですけど」
「何で? こんなにパレット汚すくらい夢中になってたのに?」
 キャンバスのそばに置かれているパレットを見ながら、紫月さんは言う。
 パレットは縁のところや手で持つところなど、様々なところが絵具で汚れていた。