「どうした? もしかして、答えられなかったのが後ろめたいか?」
心を読まれてしまった。俺、そんなにわかりやすかったか?
「……そっ、そんなことはっ」
慌てて否定しようとしたけど、できなかった。
「……気にするな。あんな質問、答えられなくて当然だ」
「でもっ」
「蓮はいい子だな」
紫月さんが俺の頭を撫でる。
「いい子じゃないです。……姉ちゃんからはいつも疫病神って呼ばれてます」
「それは姉の考え方が可笑しいんだよ。少なくとも俺から見たら、蓮はすげえいい子だよ。まっ、その内気な性格はどうにかした方が良いと思うけど」
涙が出そうになった。
「蓮は泣き虫だな」
そう言われた途端、涙が溢れ出した。
紫月さんが笑いながら俺の涙を拭う。
――手つきが優しい。紫月さんは、本当に俺を大切にしてくれている。弟の代わりとしてだけれど。
――この優しさは残酷で、なによりも暖かい。
「……床拭くか」
俺は涙を拭ってから頷いた。
「……はい。これ、使ってください」
俺は鞄のチャックを開けると、そこからタオルを取り出して、紫月さんに渡した。
「……蓮、鞄に入っているってことは、もしかしてそのタオル、俺が手当をした時から持ってたのか?」
「あっ。はい、そうです。持ってたのを言わなかったのは、放課後に怪我をさせられたら、タオルがないと困ると思ったからです」
「アホ。怪我をさせられる前提で考えてんじゃねぇよ」
紫月さんはタオルを受け取ってから、俺にデコピンをした。
「いたっ!?」
俺は思わず額をおさえた。
「はぁ。お前は自分をぞんざいに扱いすぎなんだよ。もっと自分を大切にしろ」
紫月さんは俺の傷だらけの腕を見つめながら、目尻を下げて言った。
「すみません」
「いいよ、それは。別に謝って欲しいわけじゃねぇから。本当に悪いと思っているなら、これからは自分を大事にしろ」
「……はい」
俺はパーカーの裾を握りしめて頷いた。



