僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


 紫月さんの言葉が衝撃的過ぎて、身体から力が抜けた。

 ――俺は、弟の代わり。

 その言葉だけで、紫月さんがここまで来た理由も、たかが客の俺の手当てをした理由も、一緒に飯を食おうって言った理由もわかってしまった。
 俺を弟として見ているから。それ以外に、紫月さんが俺に優しくする理由なんてない。
「最悪だろ、俺」
 紫月さんは絶句している俺を見て、自虐の笑みを零した。
「最悪じゃないです」
 俺は紫月さんの右腕を左手で掴んで、頭から離れさせた。
「何で」
 紫月さんが俺を見つめて、掠れた不安げな声で言う。
「だって紫月さんは、俺を助けてくれました」
 たとえ俺を弟として見ていたとしても、命の恩人の人を〝最悪〟なんて言葉で表したくなかった。そんなありきたりな言葉で表現するのだけは、絶対に嫌だと思った。

「だからそれは、俺がお前を弟だと思っているからなんだよ! 漫喫にはなぁ、お前の他にも常連の客は何人もいるんだよ!! その中にはお前みたいに俺より年下の奴もいれば、俺と同い年くらいの奴もいる。でも俺は、お前以外の奴とタメ口で話したこともないんだよ! 客の手当だってしたことない。俺はお前が蓮夜って名前で、弟と同い年だったからタメ口で話をしたり、怪我の手当てをしたり、飯を奢ったりしたんだよ!!」

 紫月さんの言葉が刃物となって、心臓に突き刺さったような気がした。

 簡単に言ってしまえば、それは依怙贔屓(えこひいき)だった。
『弟と似たような名前だから優しくした。弟と名前が同じだったこと以外に、優しくした理由はない』と言われているようなものだった。
 いや、正しくそう言っていた。
 俺は何も言わず、紫月さんの腕をさらに強い力で握った。
「ほら、傷ついた。だから言ったんだ、聞かない方がいいって」
 腕に圧がかかっているのに気づいた紫月さんが、余裕そうに言う。
「傷ついてないです」
 嘘だ。本当は心が痛い。姉ちゃんに傷つけられた時と比べたら今の方がマシではあるけれど、それなりにショックだ。
 弟の代わりだと思われているなんて、想像もしてなかったから。