僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「……教えてください」
 紫月さんは何も言わず、俺を見つめた。
「紫月さん、俺が傷つくかどうかを決めるのは紫月さんじゃないです。それは、俺が決めることです」
「それは、そうだな」
 そう言うと、紫月さんは頬をかいて笑った。 どうやら、話す気になってくれたみたいだ。

「俺には弟がいたんだよ。蓮って名前の」
「弟ですか」
「ああ。俺がお前を蓮って呼ぶのは、弟みたいに思っているからなんだと思う」
「弟さんは、今は紫月さんの家にいるんですか?
「――眠ってる。病院で」
 そう言う紫月さんは哀しみにくれた瞳をしていて、瞳には少しも光が宿っていなかった。

「俺の両親はギャンブル好きでさ、そのせいで俺の家系は生活苦になってたんだよ。それはもう一日一食の日がザラにあるくらい。それである日、生活苦なのが嫌になった両親は、俺と蓮をおいて心中した。両親が心中した当時八歳だった蓮は心を痛めて、植物状態になった。……蓮は両親が心中してから八年が経った今も、病院の病室で眠ってる」
 言葉が出ない。
 なんて声をかければいいのか、全然分からない。

「初めてお前に会った時、蓮が俺に会いに来てくれたんじゃないかと思ったよ。ブラコンが過ぎるだろ?」
「……紫月さん」
 自虐するみたいにそんなことを言う紫月さんを見ているだけで辛くなってきて、俺はただただ名前を呼ぶことしかできなかった。

「アイツが今も眠っているのは俺のせいなんだ。両親が心中した当時俺は十八歳で、サッカー部に入っていた。俺は二人が心中をした日部活に行ってて、弟が両親が息をしていないのを見て悲しみに暮れているのも知らないで、のん気にサッカーをしていたんだ。両親の訃報の知らせを聞いて慌てて家に帰った時、弟は既に意識を失っていた。全部、手遅れになってたんだよ!!」

 紫月さんは頭を抱えて絶望に暮れた様子で叫んだ。

「俺はお前を通して弟を見てる。お前を、弟の代わりとしてしか見てないんだよ」