僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


 一時間後。

「蓮! 蓮!!!」
 パリンッ!なんて音がして、姉ちゃんの部屋の窓が割れたと思ったら、次の瞬間、クローゼットのドアが開いた。
「……しっ、紫月さん」
 紫月さんはシャベルを持っていて、両腕や足から血を流していた。
 どうやら俺の家の庭にあったシャベルで窓を割って入ってきたみたいで、そのせいで怪我をしたようだ。無茶しすぎだろ。

「蓮!!」
 紫月さんは服を脱がされて手足を拘束されている俺を、ぎゅっと抱きしめた。

「……しっ、紫月さん、あのっ」
 安心して力が抜けてしまったのか、俺は小便を漏らしてしまった。最悪だ。ずっと我慢していたのに。
 紫月さんは目を見開いて、黄色い液で汚れている床を見た。
「ごっ、ごめんなさ……」
 紫月さんにひかれた。
 ああ。どうしよう。
「謝らなくていい。……辛かったな」
 紫月さんは俺の腰に腕を回し、もう片方の手で、俺の頭をそっと撫でた。
 涙が滝のように溢れ出した。
 俺は紫月さんの胸に顔を押し付けて、声を上げて泣いた。


「お前が無事でよかった」
 俺が泣き止むと、紫月さんは涙を流しながら笑った。


「……助けに来てくれて、ありがとうございます」
「ああ。待ってろ。今解くから」
「はい」
 紫月さんはすぐに足の拘束を解いてくれた。
「出られるか?」
 紫月さんが俺の背中を撫でながら、首を傾げて聞いてくる。
「はい」
 俺は足と尻を使って、クローゼットから出た。
「蓮、これ」
 紫月さんが俺の背後に回って、小さな声で言う。
指のことか。
「……折られました」
「他にはなにやられた? 今までやられたこと全部教えろ」
「……えっと、紫月さんに手当てしてもらったのは、カッターで刺されてできた傷です。他には顔をぶたれたりとか、煙草の火を押し付けられたりとか、髪を引っ張られたりしました」
「閉じ込められた経緯は?」
「口をハンカチで塞がれて、スタンガンを首に当てられて身動きをできなくさせられてから、体の至る所を暴行されて、服を脱がされて手足を拘束されて……クローゼットに入れられました」
「誰にやられた?」
「……実の姉です」
「……そうか」
 俺の言葉に頷いてから、紫月さんは腕の拘束を解いた。