それから二年後、俺が描いた絵は公募展で優秀賞を取り、銀座にある画廊に、今日から展示されることになった。描いたのは、俺と紫月さんの絵だ。タイトルは、『僕らだけの楽園』。大地さんのあの歌と、お義父さんとの同居生活を思い浮かべながら描いた。歌のタイトルと同じにするのは良くないと思ったから、最初の文字だけ変えた。


 姉ちゃんは一週間ほど前、無事にオーデションに合格して、今は事務所のそばの寮で暮らす準備をしているところだ。刑務所を出てから二年で合格するなんて嘘のことのようだが、本当のことだ。俺も郵送で送られてきた合格通知を、姉ちゃんと一緒に見たし。


 姉ちゃんは虐待をしたことを本当に反省したみたいで、刑務所を出てからは、俺に一切暴力を振るわなくなったし、暴言も吐かなくなった。これからもきっと、そういうことは二度とされないと思う。寮は二十三区の方にあるから、暴力を振るうためだけに、俺の家のある東大和までわざわざ電車で来るわけがないし、きっともう大丈夫だ。


 お義父さんと英輔と一緒に画廊に行くと、画廊の一番目立つ、中央のところに俺の絵は展示されていた。

「蓮夜、よかったな」
 絵を見た途端、お義父さんは大粒の涙を流した。
「うん、今まで本当にありがとうお義父さん」

 目頭が熱くなって、俺の瞳からも涙が出てきた。この絵は、俺が目を瞑らないで絵を描けるようになってから、初めてキャンバスで描いた人物画だ。それを知っているから、きっとお義父さんも泣いてくれたのだと思う。

「おめでとう、蓮夜」
「うん、ありがとう英輔」
「本当によかった」
 俺と俺の絵を見て、一文字一文字を噛み締めるように、お義父さんはゆっくりと言葉を発した。

 お義父さんの涙は一向に止まることはなくて、画廊にある絵を一通り見終わった頃に、お義父さんはやっと泣き止んだ。俺と英輔は、そんなお義父さんを、笑いながら見ていた。

 ああ、幸せだ。

 俺の絵を見て感動して泣いてくれる人がこんなに近くにいて、しかもその人が俺を、誰よりも大切にしてくれているなんて、本当に幸せすぎる。生きていて良かった。あの日、お義父さんに助けられてよかった。俺は今、きっと世界中の誰よりも幸せだ。  


(了)