「口を開けなさい」
俺は必死で首を振って拒否した。
「……蓮夜、あーん」
「あっ」
不意に名前で呼ばれたのに驚いて声を上げた瞬間、ハンカチを口に入れられた。
ハンカチについているほこりが歯に当たって、不快感に襲われる。
「蓮夜、大人しくしててね」
姉ちゃんは俺の背後に回ると、そう耳元で囁いた。
右手の人差し指を掴まれ、骨を第二関節まで折られた。
鋭い痛みと、酷い熱に襲われる。
叫びたいのにハンカチを入れられているせいで叫べなくて、余計不快感に襲われた。
涙が滝のように溢れ出す。
その涙が指の痛みが原因で流れているものなのか、それとも実の姉にこんなことをされているのが悲しくて出ているものなのかどうか、俺には判断がつかなかった。
「お仕置き完了。よくできました」
姉ちゃんは俺の口の中に指を入れて、ハンカチを取った。
「はっ、は……」
弱々しい息を溢している俺の指を姉ちゃんはそっと撫でた。
折れた指を触られるたびに、途方もない痛みに襲われる。
俺は何も言わず、焦点があってない目で姉ちゃんを見つめた。
「それじゃあ私は出かけるから。じゃあね、疫病神」
そう言うと、姉ちゃんは俺の身体を無理矢理クローゼットの中に入れ直して、ドアを勢いよく閉めた。
その後すぐに、部屋のドアが閉まるような音が聞こえた。姉ちゃんが部屋を出て行ったのか。
「はぁ。いって……」
折られた指がものすごい痛みを訴えてきた。……痛すぎだろ、これ。
「――っ!?」
マズい。
トイレ、行きたい。
プルルルル!!!
足元にあった俺のスマフォが、突然音を立てた。
紫月さんから電話がきていた。
「んー!!」
俺は足の指を使って、どうにかボタンを押した。
《蓮? お前、今日はちゃんと……》
「店長さん!! ……助けて、ください!!」
俺は声が枯れる勢いで叫んだ。
昨日家族のことを聞かれた時は散々はぐらかしたくせに今更助けを求めるなんて、虫がいいにも程がある。そう分かっていても、助けを求めずにはいられなかった。
《は? どうした?》
「……俺、今手足縛られて、クローゼットに閉じ込められてて」
《なっ!? 蓮、今いる場所の住所わかるか? あと、クローゼットの外の様子!》
俺は紫月さんに家の住所と姉ちゃんの部屋の様子を伝えた。
「えっと……クローゼットの隣に、花柄の引きだしがあります。それで、その直ぐ近くに俺の鞄が置かれていて、部屋の中央に花柄の机と椅子があって、その後ろに白いベッドがあります」
《わかった! すぐ行く!》
「……店長さん、ごめんなさい。俺、あんなに店長さんに頼ろうしてなかったのに今更頼っちゃって。今日、店長さん仕事ですよね?」
《そんなの気にしなくていい! とにかくすぐいくから、待ってろ!》
「……はい、ありがとうございます」



