「蓮夜は、お母さんとはもう暮らしたくない?」
「そ、そうじゃないけど……」
慌てて首を振る。別に母さんが嫌いになったわけではないし、母さんと暮らすのも良いのかなとは思う。でも、俺は二人で暮らすなら、母さんよりも紫月さんと暮らしたい。
「私と一緒にいたら飾音と暮らす羽目になるから、紫月さんのところに行こうとしているわけじゃないわよね?」
「それも理由だけど、他にも理由はある」
「何か聞いてもいいかしら」
俺の隣に座って、母さんは笑った。紫月さんと母さんの間に挟まれているのが落ち着かなくて、心臓が小刻みに音を立てた。
「う、うん。俺は母さんも大切だけど、それ以上にお義父さんが大事。お義父さんといるといつも楽しいし、お義父さんはとても俺を大切にしてくれているから」
「……そう。蓮夜、お母さんと二人で暮らす気はない?」
「え? 姉ちゃんは?」
母さんは姉ちゃんが釈放されたら、また姉ちゃんと一緒に暮らすのではないのか?
「飾音には、一人暮らしをさせようと思う。もちろん仕送りはするし、定期的に会いに行くつもりだけどね」
「それはいいかもしれませんね。一人暮らしをすることで、自分が今までどれだけ親や世間に迷惑をかけていたのか理解してくれるようになるかもしれないですし」
「はい」
「蓮夜、私と暮らさない?」
「……お、俺は」
『紫月さんと母さんと、鈴香さんと俺の四人で暮らしたい』そう言おうとして、やめた。そんなことを言ったら、紫月さんも母さんも、傷つくのではないかと思ったから。
紫月さんが俺の両頬に手を置いて、俺の顔をゆっくりと、自分の正面に動かした。
「蓮夜、言いたいことがあったら、それがどんな我儘でも言っていいんだぞ」
「え、何でわかって」
どうしてわかったのだろう。我儘だなんて、一言も言っていないのに。
「人に言いにくいものって、結構絞られるだろ。我儘か悪口か褒め言葉か。蓮夜は、人を罵倒することなんて滅多にないだろ。それに今は、褒め言葉を言う場面でもないからな」
「お、俺は、お義父さんと鈴香さんと母さんと俺の四人で暮らしたい」
とんでもない我儘だと、自分でも思った。
特別養子縁組は、親権が紫月さんに移る制度だ。それをした上で母さんとも一緒に暮らしたいなんて、本当にどれだけ貪欲なんだと、自分でも思った。
それでも俺は紫月さんも母さんも大切だから、どちらかと滅多に会わなくなるくらいなら、二人と一緒に暮らしたい。
「あはは! そうくるか」
紫月さんは突然、声を上げて笑った。
「え?」
「いいんじゃねぇの? 子供らしくて、蓮夜らしい我儘で。俺はいいよ、四人で」
少しも迷うそぶりを見せないで、紫月さんは決断した。



