僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「ごめんな、蓮夜」
「え? 何で謝るの?」

「俺は間違えたから。俺はお前の絵を見せれば、すぐに姉は化けの皮を剥がすと思ってた。でも実際は、そうじゃなかっただろ」

 ああ、それで俺に絵を描くように言ったのか。

「大丈夫だよ。絵は役に立たなかったけど、お義父さんのおかげで、姉ちゃんに嫌われてないことがよくわかったから。いっ?」

 紫月さんは突然、俺にデコピンをした。

「そんな顔で、よく大丈夫だなんて言えるな? 蓮夜、悩んでいるならそのことをちゃんと言え。俺と蓮夜はこれから、本当の家族になるんだから」

 え? 俺ってそんなに大丈夫じゃなさそうな顔してたのか?

「俺の元気がないことに気づいていたの?」
「そりゃあ気づくだろ。手は全然離そうとしないし、声の高さだっていつもより低いんだから」
 当たり前の前のように、紫月さんは言った。
「ごめん」
「謝らなくていいから。どうした?」
「俺、お義父さんの車の中で話したい」
「ん、わかった」
 そう言うと、紫月さんは早足で駐車場に行って、駐輪場の端の方に停めてある車のロックを解除した。
 紫月さんが運転手席のドアを開けて、車に乗り込む。紫月さんの真似をして助手席に腰を下ろすと、俺はすぐにドアを閉めた。

「お義父さん、俺、心狭いのかな」
「は? そんなことないだろ」

「でも俺、姉ちゃんはちゃんと謝ってくれたのに、姉ちゃんのこと赦せなかった」
「バカ! それが普通だ! あんなことをされて赦せる方がむしろどうかしている!」
 怒るみたいに、紫月さんは声を上げた。
「え」
「赦せないなら、赦せないでいい」

「でも俺、ずっと姉ちゃんと仲良くなりたいと思っていたのに、これじゃあきっと一生仲良くなれない」

 俺の望みは、姉ちゃんと母さんと紫月さんと俺の四人で、仲良く暮らすことだったのに。これじゃあそんな望み、一生叶えられない。

「仲良くならなくていい。無理して仲良くなろうとしても、きっと辛いだけだ。蓮夜、いいんだ。仲良くなりたくないなら仲良くならないでいいし、和解したくないなら和解しなくていい。それも一つの生き方だ」

 紫月さんは真っ直ぐに俺の瞳を見つめて、俺の頬を触った。紫月さんの手には、水が付いていた。……俺、また泣いていたのか。