「すみません」
姉ちゃんは急に人が変わったみたいに、しおらしい態度で、紫月さんに頭を下げた。
そうだ、姉ちゃんは本来こういう性格だ。優しくて、ちゃんと正しく敬語を使えて、他人や家族を決して挑発しない人だ。
虐待をするようになってから姉ちゃんは俺や紫月さんを挑発したり脅したりすることが多くあって、俺はいつもそんな姉ちゃんに怯えていたから、性格が元に戻ったのをすごく嬉しく感じた。でも……。俺は嬉しさも感じたけれど、同時にショックも感じた。優しい姉ちゃんと仲良くなりたいと思えないことを、悲しく感じた。
優しい姉ちゃんに戻って欲しいって願いは、叶った。それでも、叶ったからって今まで会ったことを全部考えないようにして、仲良くするなんて無理だ。俺は別に、姉ちゃんと仲良くなりたくないとは思っていない。むしろ仲良くなりたい。でももう、そんなの無理だ。俺と姉ちゃんは、きっともう二度と仲良くなれない。会話をできるようにはなれるかもしれないけれど、きっと俺は、これからも怯えながら会話をすることになる。
たかが四年間。されど、四年間だった。一週間暴力を振るわれただけとかならまだ、割り切れたのかもしれない。でも全然そんな期間ではないから、嫌われてなくてよかったとは思えるけれど、嫌われていなかったからまた仲良くしようとは、考えられない。
死ねばいいって言われたのに、仲良くしようなんて考えられない。
紫月さんは、姉ちゃんが俺の夢を応援してくれるようになれば、俺が目を瞑らずに絵を描けるようになるのではないかと思って、ここに来た。
でも俺はそうじゃない。
絵を見せれば、姉ちゃんが俺の夢を応援してくれるようになって、俺と姉ちゃんの関係が良好になるのではないかと思ったから、俺はここに来たのに。これでは全然、良好になりそうもない。



