「私はあんたなんか、あんたなんか嫌……ごめん、ごめんなさい」
涙を拭いながら、掠れた細い声で、姉ちゃんは謝罪をした。
姉ちゃんの手は、小刻みに震えていた。
『蓮夜なんか死ねばいいのよ! こんな弟いらない、生きているのを見るだけで腹が立つ。アンタみたいな疫病神が弟になるくらいだったら、一人っ子になったほうがまだマシだった!』
姉ちゃんに言われた言葉が、頭をよぎった。死ねばいいと言われたことを考えただけで、全身に鳥肌が立って、額から汗が流れた。
「いいよ」なんて言えない。姉ちゃんは俺に、思い出すたびに吐き気が込み上げて、目の前が真っ暗になって、死にたくなるようなことを何度もしたし、その記憶は、きっと一生なくならないから。それにこの謝罪が嘘かどうかも俺にはわからないから、そんなことは言えない。
それでも俺は、この謝罪を受け入れたい。俺はずっと姉ちゃんに大切にされたいと思っていたから。
「姉ちゃんは、俺が嫌いじゃないの?」
姉ちゃんはしっかりと、俺の言葉に頷いた。
「ごめん。今まで本当にごめんね、蓮夜」
姉ちゃんが俺に近づいてきて、ガラス越しに、俺と手の平を重ね合わせた。
「ずっとずっと、嫌いなフリをしていてごめんなさい。そのせいで私は何度も連夜を傷つけた。本当にごめんなさい」
「うっ、あっ、うう」
喉元から嗚咽が漏れた。涙が滝のように溢れ出して、心臓が誰かに掴まれたかのように痛みを上げた。
紫月さんが俺の頭に手を置いて、自分の胸に俺の顔を埋めた。
「これなら誰にも見えないから、泣きたいなら思いっきり泣け」
俺の背中を撫でながら、紫月さんは囁く。
紫月さんの服を掴んで、俺は声を押し殺して泣いた。面会室には姉ちゃんと紫月さんだけじゃなくて警察もいるから、声を上げて泣くのは無理だった。
謝ってくれただけじゃなくて、嫌いなフリをしていたと認めてくれたことがどうしようもなく嬉しかった。
嬉しかったけれど、怒りの感情も少しだけあった。
『なんで俺だけがこんな目に遭わなきゃいけなかったんだ』
『姉ちゃんの大馬鹿野郎』
『下着姿で監禁したくせに、死ねばいいって言ったくせに、何が嫌いじゃないだよ。ふざけんなよ』
汚い言葉達が、脳裏に浮かんだ。
嬉しさと怒りと憎しみで頭の中がめちゃくちゃで、叫びたい衝動に駆られた。
嫌いなふりなんてする暇があったら、もっと優しくして欲しかった。
腕が動かないのを知って感じた絶望を俺にぶつけないで、『蓮夜は何も悪くないんだよ、大丈夫だよ』って言って欲しかった。殴る暇があるなら、叩く暇があるなら、指の骨を折る暇があるなら、ダンスの練習をしたり、俺と世間話をしたりして欲しかった。姉ちゃんがそうしてくれていたら、きっと、家族みんなで幸せになることができた。
「この不器用野郎が。蓮夜が嫌いじゃないなら、最初からそう認めろ。手間をかけさせるな」
俺の身体を撫でながら、そう紫月さんは言った。



