僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「じゃあ、はい」
 口の中に指を三本突っ込まれる。
「一分だけ、舐めていいわよ」
 姉ちゃんは部屋の壁に立てかけられているアナログ時計を見ながら、静かに告げた。

「あと五十秒」
 俺は姉ちゃんの指を思いっきり噛んだ。
「きゃあっ!! 放しなさいよ!!」
 姉ちゃんは俺の脇腹に蹴りを入れた。
「ぐえっ!!」
 俺は思わず噛むのをやめて、うめき声を漏らした。
「気が変わったわ。食事はなしよ」
「えっ。やっ、やだ」
 俺は必死で首を振った。
「やだじゃないわよ。自業自得でしょ」
「こんなことしておいて、何が自業自得だよ! 俺はあんたの玩具じゃねぇんだよ! いっ!!」
「あんたは私の玩具よ。あんたは黙って私の言うことを聞いてればいいの。あんたはそうしなきゃいけないの。自分の罪を償うために」
 髪の毛を引っ張られて、耳元で呪いの言葉を囁かれる。
 四年前から俺が反抗心をむき出しにするたびに姉が言ってきた呪いの言葉。
 それは、いとも簡単に俺の神経をかき乱す。

「いーい? 私が怪我をしたのはあんたのせいなのよ。あんたが私に怪我をさせたの。あんたのせいで、私は夢を諦める羽目になったの。あんたのせいで私はこんな女になったの」

 ――俺のせい。俺のせい。俺のせい。
 姉ちゃんが虐待をするのは、俺のせい。俺が姉ちゃんの夢を壊したせい。

「……ごっ、ごめんなさい。反抗してごめんなさい」
「謝っただけで許してあげるほど、お姉ちゃんは寛大(かんだい)じゃないわ。悪い子にはお仕置きをしなくちゃね」
 そう言うと、姉ちゃんは足を引っ張って、俺をクローゼットの中から引きずり出した。

 一体何をされるんだ。
 姉ちゃんはゴミ箱の中にあった俺の口を塞ぐのに使っていたハンカチを手に取った。

 ――汚い。

 ハンカチはゴミ箱に入れられたせいで、ほこりまみれになっていた。