「飾音、お前は言ったな。蓮夜が嫌いだって。それは本当か? 本当に嫌いだったならどうして、お前はキャンバスを処分したり壊したりした方が、蓮夜が傷つくとわかっていたのに、敢えてスケッチブックを破いた? 俺なら嫌いな奴には、とことん地獄を味合わせたい。壊したり捨てたりするのに時間がかかるからって、妥協なんかしないぞ? お前は蓮夜が嫌いなんじゃなくて、蓮夜を嫌いになりたかったんだろ? 嫌いだって、必死に自分に言い聞かせていたんだろ。嫌いじゃなかったから、絵を壊すことも、身体を売らせることも出来なかったんだろ!!」
姉ちゃんを鋭い眼光で睨みつけて、紫月さんは叫んだ。紫月さんの瞳から、殺気が放たれているような気がした。
「違……っ」
姉ちゃんは必死で首を振っていたけれど、違うとは言い切っていなかった。
え?
姉ちゃんは、本当に俺を嫌っていないのか?
でもそれなら、何で姉ちゃんは、俺が嫌いだなんて言ったんだ?
「たかが一週間って、お前は言ったな。それは、『一週間で復帰できるようなことしかお前がしなかった』とも、俺は考えられると思う。違うか?」
姉ちゃんはその言葉を、否定しなかった。
相変わらず、首を振ってはいたけど、決して、『違う』とは言わなかった。
本当は間違ってはいないのだろうか。確かに、俺は傷つけられた。でも俺が身体を売られなかったことも、スケッチブックしか破かれなかったことも事実だ。
俺はガラスに手を当てて、姉ちゃんを見た。姉ちゃんの姿がぼやけた。
俺にとって姉ちゃんは、好きだけど悪魔みたいに怖い人だ。そんな姉ちゃんが今は、とても不器用な子供に見えた。
思い返すと、俺は確かに優しくされていた。クローゼットに閉じ込められた日、姉ちゃんはわざと、俺を置いて出かけた。出かけている間に俺が何らかの手段を使って逃げる可能性もあったのに、わざとそうした。それにあの日、姉ちゃんはわざと俺を逃した。彼氏を家に呼んで、彼氏に俺を監視させたり、俺を人質にして紫月さんを脅したりすれば俺が逃げることもなかったのに、あえてそうしないで、逃げる隙を作った。
「姉ちゃん、好きだよ。大好き」
伝えるのが怖くて、身体が震えた。



