僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい

「蓮夜、絵を持ってきたの?」
 俺が持っていたキャンバスを見て、姉ちゃんは言った。

「う、うん」
「はあ。いいわね、あんたは。あたしと違って好きなように絵を描けて。お兄さんにもお母さんにも可愛がってもらえて。あたしはあんたのせいで、もう二度と踊れないっていうのに」
 身体の力が抜けて、キャンバスが手から滑り落ちた。

 姉ちゃんが立ち上がって、キャンバスを見た。
 姉ちゃんは不快そうに、俺の絵を睨みつけた。

 絵は姉ちゃんが昔、インスタグラムに載せていたダンスの動画を元に描いたものだ。姉ちゃんはもう手を動かせないから、足が上がっている絵を描いた。手をメインにしていないのに、嫌がらせになるのかよ?

「何よ、その絵。嫌がらせのつもり? 私はもう、踊ることもできないのに」

「他に何か言うことはないのか。お前は蓮夜に会うたびに暴力を振るったり暴言を吐いたりするよな。それなのに蓮夜は、お前のために何時間もかけてこの絵を作ったんだぞ?」

 姉ちゃんは顔を真っ赤にして、悔しそうに唇を噛んだ。

「赤の他人が、わかったみたいに説教をしているんじゃないわよ‼︎」

「説教もしたくなる! このままじゃ取り返しがつかなくなるぞ!」
 唇を噛みすぎて、姉ちゃんの口から血が流れた。

「ね、姉ちゃん、俺はただ、姉ちゃんにダンスをしていた時のことを思い出して欲しくて描いただけだよ?」

「ふざけないで! 私を踊れなくしたのはあんたのくせに‼︎」
 その言葉を聞いただけで、涙が溢れそうになった。

「その顔がムカつくのよ。私の幸せを、夢を奪ったくせに、『自分は実の姉にいじめられている、可哀想な子です』って主張してくるその顔が!」

 俺の顔を指さして、姉ちゃんは叫んだ。警察が姉ちゃんに近づいて、腕を掴んで姉ちゃんを無理に椅子に座らせた。

 可哀想な子です? 
 自分を不幸だと思ったことは確かにあるけれど、そんな風に主張しているつもりは全然なかった。

「え、姉ちゃんはずっとそんな風に思っていたの?」
「ええ、そうよ。状況を履き違えないで。あんたは被害者じゃない。踊れなくなった私が、一番の被害者なの!!」

 姉ちゃんが一番の被害者?

「ち、違う! 俺はあの日姉ちゃんのクローゼットに閉じ込められたせいで、高校生なのに、お漏らしをする羽目になって、学校に行くのも怖くなった! 姉ちゃんだけが被害者じゃない‼︎」

「一週間足らずで学校に復帰したくせに、よくそんなことが言えるわね?」

「一週間足らず? 毎日学校に行っていた奴が、一週間行かなくなるだけでも、相当なことだろうが!」