僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「義勇!」
 大地さんが駐車場にきて、紫月さんに声をかける。大地さんは、白い箱を持っていた。多分、弟さんのお骨が中に入っているのだと思う。

「義勇、墓ができるまでは蓮くんはお前のそばに居させてやれ」

「はい。すみません、大地さん。蓮はきっと、寂しかったですよね。棺の中にいる時、俺がそばにいられなかったから。お墓を決めるのも、大地さんがしてくれましたし」
 箱を受け取ると、紫月さんはそれを、猫を撫でるかのように優しく撫でた。

「確かに寂しかったかもしれないな。でもきっと、お前に怒ってはいない。むしろ蓮くんは、お前に感謝していると思うぞ」
「ありがとうございます」
「では、行きましょうか」
 御坊さんが大地さんと紫月さんに近づいて、声をかけた。多分、紫月さんの家にこれから行くから、声をかけたのだと思う。
「はい」
 紫月さんと大地さんは、声を揃えて頷いた。
 大地さんは運転手席のところのドアを開けて、紫月さんの車に乗り込んだ。
 紫月さんが助手席に座ったので、俺と鈴香さんは後部座席に腰を下ろした。御坊さんはどうやら、俺達と違う車で、家に向かうみたいだ。多分、祭壇や仮位牌などを持って行かないといけないから、違う車なのだと思う。家に着くと、御坊さんのお手伝いの人が、リビングの壁際に祭壇を置いてくれた。祭壇は、三段だった。紫月さんは箱を、祭壇の一番上に置いた。大地さんが二段目の中央に遺影を置いて、その両隣に小さな花束を置いた。弟さんの教師をしていた人達が、一段目に蝋燭と、香炉と仮位牌を置いた。弟さんがずっと植物状態だったからか、集まったのは、大地さんと弟さんの教師を務めていた人達だけだった。

 順番に線香を焚いて、手を合わせる。お坊さんとそのお手伝いの人は、全員が手を合わせたのを確認すると、挨拶をして帰って行った。

「お兄さん、お招き、ありがとうございました」
 教師の人が、紫月さんに声をかけた。
「いえ。すみません、葬式を家族葬にしてしまって。蓮の顔、見たかったですよね」
「とんでもないです。本当に、ありがとうございました」
 頭を九十度くらい深く下げてから、教師の人は帰って行った。

「大地さん、あの……」
 紫月さんは言葉を詰まらせながら、大地さんに、弟さんが両親を殺したことを話した。鈴香さんは口を手で覆って、静かに話を聞いていた。

「え、蓮くんが、殺したのか?」
「はい。その可能性が、一番高いです」
「……そうなのか」
 骨箱を見つめながら、大地さんは呟いた。大地さんの瞳からは、涙が溢れていた。
「義勇、警察には」
「言わないです。八年前ではもう指紋も消えてしまっているでしょうし、ボールネットを渡しても証拠にはならないので」

「……そうか」

 多分証拠がなくても、言った方がいいのだろう。それでも紫月さんがそれを望まないなら、言わないのもありなのかもしれない。

「鈴香、今日は悪かったな、急に呼んで。また連絡するから、今度はちゃんと一日、デートをしよう」
 鈴香さんの髪を撫でて、紫月さんは余裕そうに笑った。
「は、はい」
 鈴香さんは顔を真っ赤にして、紫月さんの言葉に頷いた。