「んっ」
目が覚めたら、暗くて明かりが一切ないせまいとこで、体育座りのような姿勢にされていた。
手は後ろ手で指を絡められて手首を拘束されたままだし、足もまだ縛られている。口もハンカチで塞がれたままだし、服も脱がされたままだ。
身体の痺れがとれていたから絡められていた指はほどけたけど、手首にあるネクタイはとても解けそうになかった。
……ここはどこだ?
頭を動かすと、後頭部が服のようなものに触れた。
暗闇に目が慣れてきてから後ろに振り向くと、ハンガーにかけられているロングスカートがすぐそばにあった。姉ちゃんのだ。
どうやらここは、姉ちゃんの部屋のクローゼットの中らしい。
俺はクローゼットの扉を、頭で叩いた。頭が少し痛んだけど、しょうがない。腕が縛られていたからノックも出来ないし、そうするしかなかったから。
姉ちゃんが嫌そうな顔をして、クローゼットのドアを開けた。
「起きたのね、疫病神。おはよう」
「――ッ!!!」
姉ちゃんはクローゼットのそばにあった俺の鞄を手に取ると、それで俺の頭を勢いよく叩いた。
クローゼットの扉にぶつけたせいでただでさえ痛いのにその上からさらに強い衝撃を与えられたから、頭はものすごい痛みを訴えた。
鞄のポケットに入っていたスマフォが、俺の足元に落ちる。どうやら、さっきの衝撃で飛んだらしい。
スマフォの電源がついて、時間が表示された。朝の六時だ。……この時間なら、母さんはまだ仕事から帰ってないか。助けは望めないな。
「アンタは今囚人みたいな扱いを受けているわけだけど、気分はどう? 楽しい?」
姉ちゃんは俺にとんでもない質問をしてきた。
俺は必死で首を振った。
こんなことをされて、楽しいと思うわけがない。
「私はこれから出かけるから、ここで大人しくしてて。まぁ、逃げたくても逃げられないでしょうけど。あ、これは取ってあげる」
そう言うと、姉は俺の口の中に指を突っ込んで、ハンカチを取った。そして、そのハンカチをゴミ箱に投げ捨てた。
「はぁっ。ねっ、姉ちゃん、俺、……お腹空いた」
気絶してから何も口にしてないし、空腹で死にそうだ。
「え? あー、そうよね。じゃあ、帰りに何か買ってきてあげる」
「は? じゃあ姉ちゃんが帰るまでは、お預けってこと?」
「ええ、そうよ」
「ふざけんな!!」
そこでわかったって言えるほど、俺はできた弟ではなかった。姉の夢を壊した自分に抵抗する資格がないとわかっていても、そんなことを言われて『わかった』とは言う気になれなかった。



