紫月さんが元に戻ってから、一日が過ぎた。今日は、紫月さんの弟さんの葬式の日だ。

「蓮夜くん!」

 葬式の会場の前で紫月さんを待っていたら、聞き覚えのある声が聞こえた。

 鈴香さんの声だ。顔を上にあげると、本当に鈴香さんがいた。

「え、鈴香さん、なんでここにいるんですか?」

 眺めていたスケッチブックを閉じて言う。

「店長に呼び出されて。蓮夜くんも店長を待ってるの?」

「はい。ここに来るように言われたんですか?」

 鈴香さんは、小花柄のワンピースを着ていた。


「うん。葬式場だし、一瞬スーツ着てきた方がいいのかなと思ったんだけど、別に葬式に出るようには言われてなかったから、普段着で来ちゃった。蓮夜くん、私が店長に呼ばれてたの知らなかった?」

「はい、聞いてないです」

「そうなんだ」

「鈴香さん、この前はありがとうございました。鈴香さんのおかげで、店長がすごく元気になりました」

 頭を下げて言う。本当に、鈴香さんには感謝しきれない。多分鈴香さんに言われなかったら、俺は絵を描こうともしなかったと思うから。

「いやいや、私は何もしてないよ。蓮夜くんが頑張ったんだよ」

「そうですかね」

「そうだよ。あ、聞いたよ。蓮夜くん、店長の養子になるんだってね。おめでとう」

「ありがとうございます」

「うん」

「鈴香!!」

 葬式場から紫月さんが出てきて、鈴香さんに声をかける。

「あ、店長。葬式終わったんですか?」

「ああ。弟はもう空の上だ」

 紫月さんはやっぱり泣いていたみたいで、目がほんのり赤くなっていた。

「店長、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。俺には蓮夜がいるから」

 紫月さんが俺に笑いかける。作り笑いじゃない、屈託のない笑みだ。

 背後にいる紫月さんを見上げて、俺は笑った。

「蓮夜、お前だけは、俺から離れるなよ」

「うん、離れないよ」

 俺が即答すると、紫月さんは笑って、俺の頭を撫でた。

「仲良すぎじゃないですか?」

「そりゃあ親子だからな」

 俺の髪を触りながら、紫月さんは言う。