僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「蓮夜、俺の養子になってくれるか?」
 俺を見上げて、紫月さんは言った。
 紫月さんはもう、泣いていなかった。
 言われたことが嬉しすぎて、身体が震えた。紫月さんの身体を、強く抱きしめる。

「なる、なりたい!!」
「おい、即答だな。もう少し考えろよ」
「どんなに考えても、答えは同じだから」

「蓮夜、本当にそれでいいのか」
 俺の背中を撫でながら、紫月さんはもう一度意思を確認した。
「うん」

「それなら絶対に、蓮夜を幸せにしないとだな」
「もう十分幸せだよ?」
「十分なわけねぇだろ。姉のことだってまだ解決してないんだから。それに俺は蓮夜に悲しい想いをさせてばかりだしな」

「確かに悲しいこともあったけど、それと同じくらい、嬉しいこともあったよ?」
「悲しいことがあったなら十分幸せだなんて言うな。お前の人生はもっともっと、良くなる余地があるんだから」
 俺が余計泣いてしまうのを狙って、言っているのだろうか。
「うんっ」
 紫月さんの服に爪を食い込ませて、俺は頷いた。俺の右手を両手で握って、紫月さんは口を開いた。

「これからも末長くよろしく、蓮夜」
「うん、よろしくお義父さん」
 左手を紫月さんの手に重ねて、俺は笑った。

「おめでとう、蓮夜。よかったな」
 俺と紫月さんを見て、英輔は晴々とした顔で笑った。

「うん、ありがとう英輔」

 英輔がいなかったら、俺はきっと紫月さんの絵を完成させることも、紫月さんに養子になってと言われることもなかった。そう思ったら祝われたのをすごく嬉しく感じて、目頭が熱くなった。

「蓮夜、養子って特別養子と普通養子があって。普通養子は、親権者は連夜のお母さんのままで、特別養子縁組は蓮夜のお母さんじゃなくて、俺が親権者になるやつなんだけど、そっちでもいいか?」

「お義父さんが親権者になったら、母さんはどうなるの?」

「独身になる」
「そうなっても、母さんには会える?」
「会えるけど、会う回数は今よりも減ると思う。それじゃあ嫌か?」

 母さんの姿が、頭をよぎった。
 紫月さんは母さんを偽善者だと言った。多分その考えは決して間違いではない。でも俺は母さんの優しさを嫌というほど知っているから、紫月さんの養子になっても母さんにはたくさん会いたい。

「俺は……」
 養子になっても母さんにたくさん会いたいなんて言ったら、紫月さんは絶対に良い返事をしない気がした。
「お母さんに会えないのが嫌なら、特別養子でも頻繁に会うようにするか?」
 俺の考えは筒抜けだった。

「そ、そんなことしていいの?」
「いいのって。おい蓮夜、まさかお前、俺が前に母さんを偽善者って言ったから、頻繁に会うのを許可しないとでも思ったのか?」
「う、うん」
 紫月さんは呆れたようにため息を吐いた。
「うんじゃねぇよ。会いたいなら会いたいでいい」

「何で」

「お母さんが蓮夜のそばにいても、蓮夜が幸せになれるように俺がするからだよ!!」
 顔を真っ赤にして、怒るような態度で紫月さんは叫んだ。
「う、うん。ありがとうっ!」
 嬉しすぎて、泣きそうになった。