「それでもやっぱり俺は、弟さんはお父さんを恨んでないと思うよ」
「違う! 蓮は俺を恨んでる!!」
恨んでいるって思わないと生きていけないとでも思っているのだろうか。そんなことを考えてしまうくらい、紫月さんは頑固だった。
「お義父さん」
「何だよ」
「お義父さんは言ったよね? 姉ちゃんが俺をいじめるのは、俺のせいじゃないって。それなのに、弟さんが死んだのは、お義父さんのせいだって言うの?」
「お前が姉に虐められていたことと、蓮が死んだことは全然違うことだろ」
ダメだ、全然聞く耳を持ってくれない。
「お義父さん、お義父さんが幸せにならなかったら、きっと弟さんは泣くよ?」
「死んだら泣けないじゃん」
確かにと納得してしまった。
「お義父さん」
「何」
「俺は弟さんじゃない。でも、わかるよ、弟さんが恨んでないの。考えるまでもない」
「何で」
「お義父さんがずっと、俺に優しくしてくれていたから。お義父さんは俺のこと、弟さんを世話する時と同じように世話してくれたんじゃないの」
「そうだけど」
「それなら絶対恨んでないよ。恨んでいたら、俺が弟さんに死んだ時に説教する!」
「あははは! ……何だよ、それ」
紫月さんは急に、声を上げて笑った。作り笑いじゃなかった。あの縄を見る前にお義父さんが見せてくれていた笑顔と同じ顔。
この笑顔はよく知っている。やっと戻った。いつものお義父さんだ。
「お帰り、お義父さん」
お義父さんの方に顔を埋めて、俺は笑った。
「蓮夜……俺、生きてていのかな」
「生きてないと恨むよ」
「俺、可笑しい。ずっと、もう二度と両親や弟と会話ができないなら、死んだ方がマシだって思っていたのに、お前にそう言われて安心してる」
死んだ方がマシか。そう思っていたから、包帯も自分には巻いてなかったし、風邪の時も俺の心配をしていたのか?
「おかしくないよ」
「何で」
「だって俺も姉ちゃんに嫌なこと散々されたけど、死ぬのは怖いもん」
生きていてと言われて、安心するのも、死ぬが怖いのも当然だ。たぶん生きている人はみんなそうだ。
「蓮夜……俺、本当に、俺、父さんと母さんのこと好きなままでいいの?」
顔を上げると、紫月さんの涙が俺の頬に落ちた。
「いいよ」
「何で」
「俺も姉ちゃんが好きだから。それに、本当は嫌いじゃないのに、嫌いだって言い聞かせている姿なんて、俺は見たくないから」
写真たてを見ていた時の紫月さんを思い出しながら、俺は言った。
「俺と、父さんと母さんのせいで、弟は死んだんだぞ」
「俺とじゃない。お義父さん、何も悪いことしてないよ」
紫月さんが横を向いて、俺の顔を見る。紫月さんの頭の後ろに、俺は手を回した。
「うっ、うっ」
紫月さんの瞳から、滝のように涙が溢れ出した。



