僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい



「お義父さんが弟さんを愛してることを。弟さんのためだけにティーバッグを百個以上集めたことも、埃が一切出ないくらいまで弟さんの部屋や、布団を掃除していたのも」

 紫月さんは弟さんが亡くなった後も、掃除を欠かさず行なっていた。湯河原に行ったり、ホテルに泊まったりした日しか、掃除をしてない日はなかった。紫月さんがそうしているのを見て、俺は何度もすごいと思った。そしてなにより、弟さんは幸せ者だと思った。

「そ、それはただ罪滅ぼしにやっただけで、別に俺は……」
「掃除は確かにそうかもね。でも紅茶は絶対罪滅ぼしじゃないよね?」
「れ、蓮夜が好きって言ってたから」
  紫月さんは、すごくツッコミどころのある理由を言った。
 たぶん、落ち込んでいるせいで頭が回っていないから、そう言ったのだと思う。

「俺と会う前から集めてたよね?」
「集めてたけど……」

「いやそこ認めちゃダメじゃん」
「うるさい英輔。あと敬語」
 英輔の顔を見ないで、掠れた生気のない声でお義父さんは言った。

「はーい」

「お義父さん」
「な、何」
「弟さんのこと、好き?」
 紫月さんは俺の問いかけに、瞬時に頷いた。

「それだけで十分、恨まれない理由になってるよ」
 首を大きく左右に振ってから、紫月さんは顔を両手で覆った。

「……俺は蓮を殺した」

 殺した?

「別に俺が、蓮に銃を打ったわけでも、蓮を刺したわけでもない。でも俺は兄貴なのに、蓮のことが大好きだったのに、あの日、蓮を置いていった!!」

「置いていったんじゃなくて、連れて行けなかったんじゃないの? 試合会場が都外だったから」

「違う。……都内だった」
 え、嘘だったのか?

「俺、あの日、父さんの機嫌そんな悪くなさそうに見えて。それで、今日は連れて行かなくても平気かと思って」
「試合に行く前に一回しか暴力振るわれなかったから、そう思ったの?」
 紫月さんは何も言わず、首だけを上下に一回動かした。
「俺が判断を間違えたから、蓮は死んだ」