僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい



 親から暴力を振るわれるようになったのは、十年前。弟が生まれてから間もない時だ。父さんと母さんは気まぐれで、一日一回しか暴力を振るわない時もあれば、一日一時間以上暴力を振るう時も、一日中暴力を振るわない時もある。そのせいで俺は、暴力を振るうだけでも悪だとわかっているのに、ずっと親のことを好きなままだ。
 一日中暴力を振るわないようにすることができるなら、それをずっと続けてくれればいいのに。そうした方が、父さんだって寝不足にならないで済むんじゃないのか。俺や弟に暴力を振るっている時間を、寝る時間にすることができるのだから。

「はあ」
 ため息を吐きながら、俺は重い足取りで試合会場まで歩いた。

「義勇くん、試合、頑張ってね。期待してるよ」
 試合会場で、部員のみんなと一緒にストレッチをしていたら、男の人に声をかけられた。男の人はスーツを着ていた。大学の教員なのだろうか? 夜空のように黒くて、オールバックの髪が特徴的だ。
 男の人の隣には、パンツスーツを着て、丸メガネをかけている女性がいた。

「お父さん、何話してるの?」
「うちもそれ気になる!」
 観客席の最前列のところにいた女子達が、男の人に声をかけた。
男の人の子供なのだろうか。女の子は二人ともツインテールをしていて、服が上下お揃いだった。双子なのだろうか。

「あはは。今日は一段と可愛いな」
「えー、やめてよ。照れちゃう」
「だよね! 可愛いよね、うちら」
 男の人の言葉を聞いて、女の子達は嬉しそうに笑った。

 俺は何も言わず、男の人から離れた。
 つい、無視をしてしまった。男の人があまりに幸せそうだったのが癪に触って。どうしよう。怒らせたかもしれない。

「義勇くん!」
 男の人が俺の腕を掴んだ。
「どうした?」
 男の人が俺の顔を心配そうにのぞき込んだ。無視をしたのに、心配してくれるのか?
「ほっといてください」
「どうして泣いているんだ」
「え」
 頬を触ったら、指に水がついた。
「な、何でもないですから」
 俺は慌てて、目を服の袖で擦った。

「よかったら何か話、聞こうか?」
「……お金、ください」
 慌てて口を押さえる。赤の他人に何を言っているんだ俺は。金なんて、もらえるわけがないのに。

 俺が欲しいのは、話を聞いてくれる人でも、推薦でもなかった。俺が今一番欲しているのは、お金だった。両親は生活が苦しいせいで溜まったストレスを発散するために、虐待を始めた。それなら金さえあれば、四人で仲良く暮らせるのではないかと思った。

「紫月、お前は先生になんてことを頼んでるんだ!」

 サッカー部の顧問の先生が、俺の腕を掴んだ。俺は、試合に出させてもらえなかった。親が死んだことを知るまで、俺はずっと顧問の先生から説教を受けていた。