僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


 キャンバスには涙を流して、縄を握りしめている紫月さんと、サッカーボールと、紫月さんの両親の絵を描いた。英輔が色を塗ってくれたから、絵の具じゃなくて、色鉛筆で色は塗られている。

「これは……」
「お義父さん、この前言ってくれたよね。俺に、姉ちゃんを嫌いにならなくていいって。俺、お義父さんにも、同じこと伝えたくて」

「同じこと?」
「うん。お義父さんに、親を嫌わなくていいよって伝えたかったんだ」

「……バカ。何でそんなことをするために、絵を描くんだよ」
「お義父さんが大切だからだよ」
 紫月さんの瞳から、涙が零れた。


「お兄ちゃん、試合、勝ってね! 絶対!」
 玄関で靴を履いていたら、俺のそばにいた弟が、そんなことを言ってきた。
「ああ、勝つよ」
「ハッ。能天気だな、お前ら。今日の夜に食う飯もないって言うのに」
 玄関のすぐそばにあったドアが開いて、そこから父さんが出てきた。
「だったら買いに行けばいいだろ」
「金があるなら、とっくにそうしてる」
 父さんは下駄箱にあった自分の靴を取ると、それを俺に向かって投げた。
「っ!」
 靴がお腹に当たった。慌てて口を押さえる、腹が痛くて、呻き声が零れそうになった。
「相変わらず従順だな」
「うるせえ」
 手を下ろしてから、俺は父さんを睨みつけた。
 父さんの目は、泣いたあとみたいに赤くなっていた。
「寝れてないのか」
「あ?」
「目が赤いし、髪もボサボサだから」
 まだ四十代なのに、父さんの髪はサンタクロースのように白くて、毛先が四方八方に跳ねていた。

「俺のことより、自分の心配をしたらどうだ? 試合、遅刻するぞ」
「送ってくれない?」
「は? 頭沸いたか?」
 親に送って欲しいって言っただけなのに、そう言われるのかよ。

「……今の忘れて。行ってきます」
 そう言って、俺はドアを開けて家を出た。