僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「でも多分、弟さんが言わなかったのは」
「ああ、そうだ。多分、俺が大切だったからだ。逮捕されるのは自分だけでいいと思っていたんだろうな」

 弟さんは、紫月さんが大切だから、敢えて相談をしなかった。紫月さんは自分を大切に思っているなら、相談をして欲しいと考えていたのに。
「弟さんとお義父さんは、考え方が真逆だったんだね」
「そうだな。そのことにもっと早く気が付きたかった」
「いいんじゃないかな、別に今でも」
「何でそんな風に言えるんだよ」
「だって、気づかないよりは、よっぽどいいでしょ?」
 紫月さんは俺の胸に顔を埋めて、声を押し殺して泣いた。紫月さんが俺の胸で泣いてくれたことが嬉しくて、心がポカポカした。

紫月さんは俺の胸に顔を埋めて、声を押し殺して泣いた。紫月さんが俺の胸で泣いてくれたことが嬉しくて、心がポカポカした。

「蓮夜、お前はいつも、俺が欲しい言葉をくれるな」
「え、本当に?」
 あまりに予想外なことを言われたから、ついそう聞いてしまった。

「ああ、本当だ。ありがとう、蓮夜」
「うん」
 紫月さんの頭を撫でて、俺は笑った。

「懐かしいな、それ」

「え?」
 大地さんに頭を撫でられていたことを思い出しているのだろうか。

「虐待をされる前は、父親がよく頭を撫でてくれていたから」
「大地さんより、お父さんの記憶の方が残っているの?」
「ああ。大地さんは、俺の本当の親ではないからな」
「そっか」

「忘れられたら、楽なのにな」
「え?」
 怪我をしていない方の手を俺の腰に回して、紫月さんは呟いた。

「優しかった記憶と、怖かった記憶の両方が残るくらいなら、怖かった記憶だけ残って欲しかった。そうだったらきっと、嫌いになれたのに」

 確かにそうだよな。

「俺も、姉ちゃんのこと嫌いになりたかった」
「やっぱりそうだよな」
「うん」

「でも、連夜は大丈夫だからな。蓮夜は別に、姉のことを無理に嫌いにならなくていいから」

「え、何で?」
「蓮夜が姉のことを思い出して辛くなったら、その度に俺が、服を買ってやったり、料理を振る舞ったりして、蓮夜のことを笑顔にするから」

 目頭が熱くなって、涙が溢れ出した。

「うん、ありがとう」
 紫月さんの腰に手を回して、俺は言った。

 俺も紫月さんを笑顔にしたい。
 俺も紫月さんに、親を嫌わなくていいよって言ってあげたい。
 紫月さんの家族の絵が描きたい。その絵を通して、俺も紫月さんに、親を嫌わなくていいよって言ってあげたい。そうすることができたら、きっと紫月さんはまた、笑ってくれるようになる。