僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「ただいまー」
 英輔とわかれると、俺はドアを開けて、マンションの紫月さんがいる部屋に入った。
 紫月さんはどこにいるのだろう。俺はドアを一つひとつ開けて、紫月さんがいるかどうかを確認した。

「あ」
 紫月さんは、憩いの場にいた。布団の上に立って、窓の方を見ている。窓には、写真たてが置いてあった。
 俺の声に気づいて、紫月さんが後ろに振り向く。
「お帰り、蓮夜」
 俺と目が合うと、紫月さんは穏やかな声でそう言った。

「うん、ただいま」
 俺は鞄をドアの近くに置いて、紫月さんのそばに行った。

「今日は英輔と一緒に帰らなかったのか?」
「ううん、一緒に帰ったよ。でも英輔、『今日は家族みんなでご飯を食べるんだ』って言って、俺を送ったらすぐに帰っちゃった」

「家族みんなね」
 紫月さんが俺から目線を外して窓の方に目を向ける。

「あっ」
 窓のそばに行って写真たてを触ろうとすると、紫月さんはすぐに声をあげた。触らないほうがいいのだろうか。俺は慌てて、両手を膝の上に置いた。
 写真たてには、赤ん坊を抱えた紫月さんと、大人の人が二人映った写真が入っていた。三人とも、目を細くして笑っている。

「お義父さんの両親?」
「そう。それが、唯一残っている家族写真だ」

 家族写真?

「じゃあ、赤ちゃんは弟さん?」
「ああ、そうだよ。いい笑顔だろ? その時はまだ、両親は借金を抱えてなくて、家族の仲がよかったから」
 紫月さんは悲しそうに、目尻を下げて笑った。

「そうなんだ」
 いつから仲が悪くなったのだろうと思ったが、聞いていいのかわからなかったから俺はただ頷いた。

「ああ。俺の母は専業主婦で、父が生活費や学費を負担していたんだけど、弟が生まれて父がもっとたくさん働かないと、生活がきちんと出来なくなってしまってから、両親はギャンブルにハマり出して、俺や弟に手を上げるようになったから、その前までは穏やかだったんだよ」
 俺が聞く前に話してくれた。まさか血の繋がってない俺に家庭の事情を自分から詳しく話してくれるなんて思っていなかったから、とても嬉しくなった。

「両親がギャンブルにハマったのは弟のせいじゃないけど、弟が生まれたことで生活が苦しくなったせいで、両親がギャンブルにハマり出したのは確かだから、弟は連夜みたいに、両親が怖くなったのは自分のせいだと思っていた」
「あ、それで、お義父さんは俺が、姉が暴力を振るうのは自分のせいだって言う度に、あんなに俺に怒ってくれていたの?」
 紫月さんがあんなに怒ってくれていた理由に、弟さんのことが関わっているなんて思っていなかったら、とてもびっくりした。

「ああ、そうだよ。俺は散々お前のせいじゃないって言ったんだけど、両親にはお前のせいだって散々言われていたから、結局弟は『両親が凶暴になったのは自分のせいだ』と思ったまま、死んだんだろうな」
 自分のせいだと思っていたから、自分で決着を付けようと思って、紫月さんに相談もせずに両親を殺したのだろうか。

「何もかも終わらせる前に、一言俺に相談してくれれば良かったのに。弟がそうしてくれていたら、きっと、あんな悲惨な結末にはならなかった」
 紫月さんが十八歳の時に見た光景は、きっと、悲惨とか、凄惨とかいうありきたりな言葉では表せないほど、ひどいものだったのだと思う。