僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「山吹、小鳩、そろそろ帰れ」
 教卓のそばにいた矢野先生が俺達に近づいてくる。

「先生、どうっすか? これ! メチャクチャよくないですか?」
 英輔は目を大きく開けて、上機嫌で俺の絵を指差した。キャンバスに近づいて、矢野先生は口を開く。
「ああ。素敵だ、心がこもっている気がする。下書きだけなのに、この人が山吹にとって凄く大事な人なのが伝わってくる」
 俺の目を見て、矢野先生は笑った。

「そうっすよね? いやあ修正するのはマジでもったいないなあ」
 絵を覗き込んで、英輔は腕を組んだ。
「修正?」
 矢野先生が眉をひそめた。

 矢野先生にその話をするのか? まあ、修正の話だけなら、別にしていいかなあ。

「はい、この絵は人に送る絵なんですけど、その人は自分のことが嫌いなので、自分の絵じゃダメなんです」

「ダメなんてことはないだろ。アレンジを加えてみればいいんじゃないか」

「アレンジ?」

「ああ。その人がこの絵を見ても落ち込まないような工夫をすればいい。その人の大事な人を隣に書いてみたり、周りを花で埋め尽くしたりとかして」
 確かに、それもありかもしれない。でも。
「お、いいじゃんそれ! 俺も協力するから、義勇さんはそのままにして、その周りを工夫しようぜ」
「でも、それで本当に喜ぶのかな」
「喜ばせるんだよ‼︎」
 肩を掴まれて、身体を揺さぶられる。
 喜ばせるか、そうだよな。『喜ぶのかな』なんて思っていたら、ダメだよな。

「そうだな、小鳩の言う通りだ」

「ああ、また小鳩だ。先生いい加減名前で呼んで下さいよ」
 不服そうに口を尖らせて英輔は言う。

「お前だけ名前で呼んでいたら生徒達が不審に思うだろ」
「俺はそれでもいいですけど」

「俺がよくないんだよ! ほら、もう六時半だぞ。キャンバスとイーゼルを片付けて、とっとと帰れ」
 あからさまに話題を逸らした。本当に名前で呼ぶ気がないのか。

「はーい」
 口を尖らせて、英輔はキャンバスを抱えた。
「あ、ありがとう、英輔」
 慌てて礼を言う。
「おう。どこ運べばいいですか?」
「準備室だな。案内する」
 矢野先生が英輔の問いに答える。イーゼルも準備室に置かないとだから、二人の後をついて行こう。俺はイーゼルを持って、矢野先生と英輔の後を追った。