僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「は? すご‼︎」
 耳元で英輔の声がした。部活終わったのか?  指を動かすのに集中しすぎて、英輔が美術室に入ってきたことにも気づかなかった。目を開けたら、絵を見る前に、英輔に両手で視界を塞がれた。
「英輔?」
「ごめん、蓮夜。絵を見たらお前が凄く戸惑いそうだったから、視界を塞いだ」
 戸惑う?
「絵が下手で戸惑うってことか?」
「いや、絵はすごく上手い。ただこれは……」
 英輔の手を払いのけて、絵を見る。
 キャンバスに描かれていたのは、涙を流しながら縄を抱きしめている紫月さんの絵だった。紫月さんはスーツを着ていて、目を薄く開いて、口角を上げて笑っていた。嬉し泣きなのか?
「葬式……?」
 スーツ姿なのを見て、紫月さんの弟さんの葬式がもうすぐあることを思い出した。
「いや、多分葬式の絵じゃない。葬式なら持っているのはお骨のハズだ。多分これは、蓮夜の願望だ」
 英輔を見つめて聞き返す。
「俺の願望?」
「ああ。今の義勇さんは縄を見たら悲しそうに涙を流すだろ? 蓮夜はそうじゃなくなって欲しいって、縄を見ても笑えるようになって欲しいって思っているんじゃないか? だからこの絵を描いたんだよ」
 そういうことなのだろうか。

 紫月さんは、俺がくだらないと、地獄だと思った人生に突然訪れた光のようなもので。でもその光は、太陽に眩しくて心強い時もあれば、触れてば消えてしまいそうなほど儚い時もあって。鈴香さんはそれを素敵で魅力的だと思っているのだろうけど、俺は好きな人にはずっと笑っていて欲しいと思う。もしかしたらその想いが、絵に現れたのかもしれない。

「この絵、修正する?」
「うん」
「まあそうだよな。俺はこのまま描いても凄く素敵なのができる気がするけど、義勇さんは自分の絵なんて見ても元気にならなそうだしな」

「うん、自分の絵じゃ元気にはならないと思う」


 紫月さんはたくさん良いところがあるのに、全然自分を好きになってくれない。まあ多分それは、紫月さんの今までの環境のせいだと思うけど。
 紫月さんがもっと、自分を好きになってくれたらいいのに。そうなったらきっと、俺はもっと幸せになれる。