「飾音、こいつ引き摺っていい?」
「いいわよ別に」
姉ちゃんが俺の鞄を肩にかけた。多分、地面にあると不自然に思われると考えて、そうしたのだと思う。
秋に両足を掴まれ、身体を引き摺られる。コンクリートに身体がこすりつけられて、ただでさえスタンガンのせいで猛烈な痛みに襲われているのに、さらにひどい痛みに襲われた。
秋はそのまま俺を廃工場のドアの前まで連れて行った。
秋の前を歩いている姉ちゃんが廃工場の両開きのドアを開けて、中に入っていく。
秋は俺の身体を引き摺ったままの状態で、廃工場の中に入った。
ドアのそばにいた姉ちゃんは、秋と俺が中に入ったのを確認すると、勢いよくドアを閉めた。
「飾音、こいつ好きに甚振っていいのか?」
「ええ、いいわよ」
姉ちゃんがそう言った瞬間、秋は俺の腹を足で踏んだ。もう片方の足で脇腹をげしげしと蹴られ、腹ばかり集中的に狙われる。
……苦しい。
「それじゃあ次は、火傷でもしてみるか?」
身体に馬乗りをされた。
……重。
秋の全体重が体にかかった。
「秋」
姉ちゃんが俺の鞄を床に置いてから、ズボンのポケットからライターを取り出している秋に声をかける。
「ん、どうした飾音」
「それなら、こうやって」
姉ちゃんはポケットから煙草を取り出すと、秋が持っているライターでそれに火をつけた。
どうしようもない悪寒が俺の心を支配した。心臓の鼓動が早くなって、危険を察知した脳が、逃げろ!と命令してくる。逃げたいのに、手も足も動かなかった。
痛みには痛みをと、カッターで切り裂かれている傷口に、煙草の火を押しつけられた。
「――っ!!!!!」
気絶しそうなくらい痛烈な痛みと、尋常じゃないほどの熱に襲われた。
「おいおい、そんなことしたら、一生消えない火傷の跡がつくぜ?」
「いいのよ」
「へいへい」
姉ちゃんは火が消えるまで、傷口に煙草を擦りつけた。
涙が溢れ出して、床に落ちる。
右腕が使い物にならなくなった。腕全体が熱と痛みに支配されていて、指すらろくに動かせない。
……俺、今日死ぬのかな。それは嫌だな。
でもスタンガンを当てられた上に腹や腕をさんざん傷つけられたせいでろくに身体を動かせないし、殺されそうになったら抵抗できないな……。
……俺の人生、十六歳で終わるのか。短いな。
ゆっくり零れていた涙が、滝のように一気に溢れ出した。
何で実の姉に殺されなきゃならないんだよ。そんなの冗談じゃない。



