僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「あのさ、英輔」

「ん? どうした?」
 牛丼の肉を飲み込んでから、英輔は首を傾げた。

「英輔は俺といて退屈じゃない?」
 運動神経が抜群で、人当たりもいい英輔の周りには俺の他にもたくさんの友達がいる。そのこともあって、英輔は十人くらいの人に、一緒に飯を食べないかと誘われていたのに、それを全て断って、俺に声をかけてくれた。俺はそれを嬉しいと思う反面、申し訳なくも感じていた。俺にはそんなことをされる価値なんて全然ない気がするし、俺が話題にできるのは紫月さんの家で起きたことと、絵のことくらいしかないから。

「退屈じゃねぇよ? 俺サッカーバカで絵なんて全然描けないから、蓮夜が絵を描けることすごいと思うし、義勇さんや絵の話を聞くのも楽しい」

「楽しい? 何で?」

「蓮夜の話の内容が、俺が想像したことも体験したこともないようなことばかりだから。それに蓮夜といると、見たこともない景色が見られそうだし」

「見たこともない景色」
「ああ。例えば蓮夜の自信作の絵とか!」
 確かに、絵も景色の一部か。

「……英輔、俺、明日も英輔と一緒にご飯食べていい?」
「あはは! もちろん。むしろなんでダメなんだよ」
 英輔が軽快に笑い飛ばす。

「昨日友達になったばかりだし、英輔には友達がたくさんいるみたいだから」
「友達は確かにいるけど、今は蓮夜と一緒にいたいから。それが一番楽しそうだし」
「ありがとう」
『は? 疫病神のあんたに友達なんかできるわけがないでしょ。あんたは生きているだけで迷惑なんだから』
 姉ちゃんに言われた言葉が、頭をよぎった。『姉ちゃん、俺、友達できたよ?』って言ったら、褒めてくれるのかな? それとも、『だから何?』と威圧的に尋ねるだけだろうか。

「蓮夜? どうした?」
「え?」

 顔を触ると、瞳から涙が溢れていることに気づいた。英輔の顔がぼやけた。英輔がポケットからハンカチを取り出して、俺に手渡す。ハンカチでどんなに拭っても、涙は溢れ出した。英輔は何も言わず、静かに俺が泣き止むのを待ってくれた。

「じゃ、そろそろ教室戻るか」
 俺が泣きやんだところで、英輔は言った。
「うん。ハンカチは洗って返すね」
 ハンカチをポケットに入れてから、俺は頷いた。
「律儀かよ。了解」
 俺の言葉に笑いながら頷いてから、英輔は空の容器をゴミ箱に捨てた。牛丼食べ終わったのか。二人で当たり障りのない話をしながら俺の教室に戻る。英輔は予鈴が鳴るまで、ずっと俺の隣にいてくれた。それがどうしようもなく嬉しくて、俺は授業中、ずっと顔が緩んでしまった。