僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「あははは。やっぱり蓮夜は嘘がつけないタイプだな」
 紫月さんが笑った。顔が引き攣っていた。一体紫月さんはいつまで、この演技を続けるつもりなのだろう。

「正直ものなのはいいことだ。だろ? 英輔」
「はい」
 笑って、英輔は頷いた。

 俺は下を向いて、ゆっくりと英輔に家のことと紫月さんのことを話した。

「え、義勇さん、かっこいいすね!」
 一通り話を聞いた英輔は、突然大声を上げた。

「は? お前、話聞いてたか? 俺は誘拐犯だぞ?」

「はい、ちゃんと全部聞いていました。それでも、すごくかっこいいと思いました。だって義勇さんがいなかったから、蓮夜は俺と友達にもなれていなかったと思いますから」

「全部聞いていて、最初に言う言葉がそれなのか?」

「はい」
「……お前が蓮夜の友達で良かったよ」
 そう言って、紫月さんは英輔の頭を撫でた。

 紫月さんはピザを二枚、電話で注文した。夜ご飯にピザなんて食べたら絶対に太る。でも、俺も紫月さんも虐待のせいで痩せ型だし、英輔も部活をしていることもあってどちらかというと細めだから、そんなことは気にせずに飽きるまで飯を食べた。俺は虐待をされるようになってから初めて、腹いっぱい飯を食べた。

**

 涙を拭ってから、弟の部屋に行く。
 弟の部屋では、蓮夜がスケッチブックの白紙のページと睨めっこをしていた。

「蓮夜、目を瞑って」
「え、うん」
 蓮夜は俺の言葉に頷くと、すぐに目を瞑った。

「蓮夜、真っ暗だと怖いか?」
 クローゼットに監禁されたことを、蓮夜が思い出してしまうのではないかと思った。

「怖くないよ。お義父さんがそばにいるってわかっているから。でも、何で急に?」

「ペンを握っている自分の姿が見えたり、スケッチブックが目の前にあったりするから怖いと思うんだ。それなら視界を塞げばいい。違うか?」

「確かに理屈はそうだけど」
 俺は机の上にあったペンを握らせると、ゆっくりと蓮夜の手を紙の上に置いた。

「蓮夜、そのまま思いのままに、指を動かして」
 紙がペンと触れ合って、小さな音を立てた。
「あっ」
「蓮夜怖がらないで。何も考えなくていい。深呼吸して」
「うん。すー、はぁ」
 蓮夜はゆっくりと、深呼吸をした。

 まるで魔法が解けたかのように、指は素早く動いた。四年間描いていなかったとは思えないくらいの手捌きだ。信じられない。
 その手が描いたのは、真っ白な縄の絵だった。縄からは髪の毛のアホ毛のように毛が少し出ていて、縄の後ろにはしっかりと影が描かれている。しかもその影は全然雑じゃなくて、色が濃いところと薄いところがあった。

「な、何でこんな」

 目を瞑っているのに、四年もブランクがあったのにどうしてこんなに絵が上手い。ひょっとしてこいつは、天才なんじゃないだろうか? 天は二物を与えたと言っても過言じゃない。元から良い絵を描く奴なのは知っていたが、まさかここまでとは。
 でも、この絵は……。
 その絵は間違いなく、あの箱にあった縄の絵だった。何で、どうしてよりによって描くのがその絵なんだ。こんな絵を描かれたら、蓮夜の才能を褒められない。弟のことで、頭がいっぱいになってしまう。