「あははは。やっぱり蓮夜は嘘がつけないタイプだな」
紫月さんが笑った。顔が引き攣っていた。一体紫月さんはいつまで、この演技を続けるつもりなのだろう。
「正直ものなのはいいことだ。だろ? 英輔」
「はい」
笑って、英輔は頷いた。
俺は下を向いて、ゆっくりと英輔に家のことと紫月さんのことを話した。
「え、義勇さん、かっこいいすね!」
一通り話を聞いた英輔は、突然大声を上げた。
「は? お前、話聞いてたか? 俺は誘拐犯だぞ?」
「はい、ちゃんと全部聞いていました。それでも、すごくかっこいいと思いました。だって義勇さんがいなかったから、蓮夜は俺と友達にもなれていなかったと思いますから」
「全部聞いていて、最初に言う言葉がそれなのか?」
「はい」
「……お前が蓮夜の友達で良かったよ」
そう言って、紫月さんは英輔の頭を撫でた。
紫月さんはピザを二枚、電話で注文した。夜ご飯にピザなんて食べたら絶対に太る。でも、俺も紫月さんも虐待のせいで痩せ型だし、英輔も部活をしていることもあってどちらかというと細めだから、そんなことは気にせずに飽きるまで飯を食べた。俺は虐待をされるようになってから初めて、腹いっぱい飯を食べた。
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涙を拭ってから、弟の部屋に行く。
弟の部屋では、蓮夜がスケッチブックの白紙のページと睨めっこをしていた。
「蓮夜、目を瞑って」
「え、うん」
蓮夜は俺の言葉に頷くと、すぐに目を瞑った。
「蓮夜、真っ暗だと怖いか?」
クローゼットに監禁されたことを、蓮夜が思い出してしまうのではないかと思った。
「怖くないよ。お義父さんがそばにいるってわかっているから。でも、何で急に?」
「ペンを握っている自分の姿が見えたり、スケッチブックが目の前にあったりするから怖いと思うんだ。それなら視界を塞げばいい。違うか?」
「確かに理屈はそうだけど」
俺は机の上にあったペンを握らせると、ゆっくりと蓮夜の手を紙の上に置いた。
「蓮夜、そのまま思いのままに、指を動かして」
紙がペンと触れ合って、小さな音を立てた。
「あっ」
「蓮夜怖がらないで。何も考えなくていい。深呼吸して」
「うん。すー、はぁ」
蓮夜はゆっくりと、深呼吸をした。
まるで魔法が解けたかのように、指は素早く動いた。四年間描いていなかったとは思えないくらいの手捌きだ。信じられない。
その手が描いたのは、真っ白な縄の絵だった。縄からは髪の毛のアホ毛のように毛が少し出ていて、縄の後ろにはしっかりと影が描かれている。しかもその影は全然雑じゃなくて、色が濃いところと薄いところがあった。
「な、何でこんな」
目を瞑っているのに、四年もブランクがあったのにどうしてこんなに絵が上手い。ひょっとしてこいつは、天才なんじゃないだろうか? 天は二物を与えたと言っても過言じゃない。元から良い絵を描く奴なのは知っていたが、まさかここまでとは。
でも、この絵は……。
その絵は間違いなく、あの箱にあった縄の絵だった。何で、どうしてよりによって描くのがその絵なんだ。こんな絵を描かれたら、蓮夜の才能を褒められない。弟のことで、頭がいっぱいになってしまう。



