僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


 放課後。

 学校から出ると、校門の前に姉ちゃんがいた。
 姉ちゃんは男の人と腕を組んでいた。たぶん、彼氏だ。
「は? 姉ちゃん、何でいるの?」
「えーだって、彼氏が私の夢を壊してくれたあんたにお礼をしたいっていうから。ちょっと付き合いなさいよ」
 冷や汗が頬を伝う。
 ……地獄が始まる。
 姉ちゃんが肩に掛けていたバックの中身を俺に見せる。

 ――っ!?
 スタンガンが入っていた。

「これで撃たれたくなかったら、大人しく従いなさい」
「……わかった」
「アハハハ! 飾音怖! マジで弟のこと好きじゃないんだな」
 姉ちゃんの彼氏が声を上げて笑った。
「そりゃそうでしょ。行くわよ、(あき)
「へいへい。ちゃんとこいよ、ガキ」
 俺は何も言わず、二人の後をついていった。
 二人は俺を人気のない廃工場に連れて行った。

「……ここ、もうすぐ取り壊されるからか、人が滅多にこないんですって。いじめをするには絶好の場所よね」
 廃工場の入り口の前にいる姉ちゃんは、俺に聞こえるように、わざと大きな声で喋った。
「確かに! 建物の中でやれば、そいつが悲鳴上げても、誰にもバレなそうだし」
「何言ってるの。悲鳴なんて上げさせないわよ。万が一バレたら、洒落にならないんだから」
「ハハッ。そりゃそうか。じゃ、やるか」
「ええ」
 姉ちゃんが秋と肩を組むのをやめて、俺に近づいてくる。
 俺は走って、姉ちゃんから離れようとした。だが、秋に先回りをされて、両腕を掴まれた。
「いっ!!」
 ぐぐっと、握られている腕に力を込められる。
 痛みに耐えられなくて、左肩にかけていた鞄が、手首までずり落ちた。

「放せ!!」
「うるせぇな。さっさとやれ、飾音」
「言われなくても」
  秋が俺から手を離して横にずれた。
「うっ」
 突然、首に信じられないくらいの痛みが走った。雷が当たって、身体中が感電したような気がした。横を見ると、姉ちゃんが俺の首にスタンガンを当てていた。
 頭から道路に身体を突っ込んだ。鞄が地面に落ちて、頭が尋常じゃないほどの痛みを訴える。痛みに耐えられなくて、俺は思わず身体を縮こませた。

「うっ……。はぁっ、はぁ……」
 姉ちゃんはスカートのポケットからハンカチを取り出すと、丸めたそれを俺の口に突っ込んだ。抵抗しようとしたけど、痛みが頂点に達していて、俺はなす術もなく口を塞がれた。