僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


 まあ、苗字が紫月だからそんな感じがするだけなのだけれど。

 紫月さんは大丈夫なのだろうか。心配だなぁ。紫月さんは、見た目は大人なのに中身は幼くて、不安定だから。一人で泣いてないといいのだけれど。いや多分、泣いているのだろう。今朝も眠っている時に涙を流していたし。

 はあ。紫月さんへのこの気持ちを、絵に描くことができたらいいのに。

 俺は結局、六時前まで絵を描くことができなかった。美術部ではその日描いた絵を最低でも一人一枚は矢野先生に提出する決まりがあるらしく、絵を描けなかった俺は明日二枚絵を提出するように言われた。

 絵は完成したものでも未完成のものでもいいけど、さすがに白紙はダメらしい。

 俺以外の部員は絵をきちんと提出して帰ったから、今美術室にいるのは俺と矢野先生だけだ。

 はあ。こんなことになるなら、絵を描けない理由を矢野先生にちゃんと説明しておけばよかった。いや、姉ちゃんのことを人に知られるのはあまり良くないか。


「蓮夜、お待たせー!」

廊下のそばにある水道でパレットとバケツを片付けていたら、英輔がそんなことを言って美術室に入ってきた。

「英輔」
 目が合うと、英輔はすぐに俺の隣に来た。

「仲良かったのか?」
 矢野先生が近づいてきて、俺と英輔を交互に見る。

「さっき仲良くなったんですよ!」
「さっき? あ、お前か! 美術室の窓にボール当てそうになったの!」
「イヤイヤ先生、それ俺じゃないです。俺はボール止めた方です!」
 英輔は勢いよく首を振った。

「本当か、山吹」
 え、ここで俺に確認するのか?

「は、はい。英輔はボールを止めていました」
「ならいい。山吹、明日はちゃんと部活やれよ?」
「う。はい。……頑張ります」
 下を向いて、俺は頷いた。

「え、蓮夜部活サボったのか?」
「帰りながら説明するから」
 そう言うと、俺はすぐにバケツとパレットをタオルで拭いた。

「さようなら、先生」
 バケツとパレットを元の場所に戻して、鞄を肩にかけてから、矢野先生に挨拶をする。

「さいならー」
「ああ、また明日」

 矢野先生は英輔の気さくな挨拶を聞いて眉を吊り上げたが、別にお説教をしようとはしなかった。